「ドラえもんの道具で一番欲しいもの」に対するベストアンサーを探してみた

はじめに

本記事の主題は、漫画『ドラえもん』の愛好者をはじめとした多くの方々により長年に渡って議論されてきたテーマです。本記事の終わりに我々は一つの結論を出してはおりますが、作中の道具に対する解釈などはさまざまであり、あくまで一つの考え方に過ぎないことをご了承ください。

藤子・F・不二雄先生に、最上の敬意を込めて。

マジスカスクエアガーデン

「ドラえもんのひみつ道具、一つだけもらえるならどれがいい？」

これは多くの日本人が今日に至るまで、一度は直面したであろう究極の問いである。

無邪気な子どもの夢を、無邪気なままに叶えてくれるひみつ道具の数々。

作中に登場した道具の数は、漫画やアニメなどを合わせて 2,000 を優に超える。

2020年にLINEが実施したWeb調査「1番欲しいドラえもんのひみつ道具ランキング」では、以下の道具がベスト3に選出された。

第1位：どこでもドア

第2位：タイムマシン

第3位：もしもボックス

どれも本作を代表するひみつ道具の面々であり、その効能も非常に強力だ。

他にも魅力的な道具はあれど、“一番”と考えたときに登場頻度も高くインパクトの強いこれらのアイテムに票が集まるのは当然だろう。

これらは「もし今、その道具が手に入るなら」という仮定において、

本当に望ましいものだろうか？

たとえば1位のどこでもドア。

好きな場所を口にすることで、そこへ瞬間的に移動できるという黒魔術だ。

一部ではこの技術が「人体を分子レベルでスキャンして消滅させてから移動先の地点において再構成するものであり、利用者は事実上の死を迎える」と噂されていることも有名な話である。

しかしそれ以上に、どこでもドアには明確な利用時のリスクが存在する。

それは到達地点を明確に指定できないことと、利用シーンを第三者に発見されてしまう可能性があることだ。

前者に関しては、てんとう虫コミックス41巻収録『みえないボディガード』のワンシーンが象徴的だ。いつも通りしずちゃんの家にどこでもドアで向かおうとするのび太たちだが、ドアを開けた瞬間に大量のお湯が部屋になだれ込んでくる。

お馴染みの「浴室直結」パターンだが、今回は浴槽に直結したのだ。

要は利用者の安全性とは関係なくドアが繋がるのである。場所によっては人や自動車の往来、自然災害などに巻き込まれる可能性がある。その場合には「ドアを少しだけ開けて様子を見る」といった用心にも限界がある。

作中でも、移動先の状況次第でいきなりトラブルに見舞われるケースは少なくない。

そして後者のリスクはさらに深刻だ。

移動先の空間に真っピンクの変態みたいなドアが出現し、そこから何も考えてないアホ面の貴方が出てくる瞬間を、第三者に見られたとしたら。

想像してみて欲しい。

写真や動画を撮られてはSNSで大拡散。ネットの動画を流してタレントがワイプで表情筋を発揮するだけのテレビ番組に、何度も繰り返し使われることだろう。

そこに、貴方の平穏無事は存在しない。好奇の注目をとにかく集めたいというドアのカラーに似つかわしい変態からすれば願ったり叶ったりだろうが、多くの人にとっては避けたい事態だ。

さらには2位のタイムマシーン。

未来・過去問わず、セットした年代日時にタイムワープできる夢のような道具だが、これに関しては第一に安全性の低さが問題だ。

なぜ柵をつけなかったのか？

もしもマシンから転げ落ち、時空の狭間に飲み込まれたらと思うと背筋が凍る。上のシーンでも、スネオがだいぶ瀬戸際にいる。

タイムマシンに関しては安全性を考慮して、才女・ドラミのチューリップ号を推す声も多い。

ヤカラのオープンカーみたいなドラえもんのそれと比べると、こちらは言わばセダン。安全性・快適さは十分に感じる。

しかし、この道具を利用するリスクはそれだけには留まらない。

それはどこでもドアと同様に安全な場所に着地できるとは限らないこと。そして、歴史改変に繋がりうることである。

前者はもはや説明の必要もないだろう。ワープ先に開くのは宙に浮かぶ黒い穴であり、どこでもドアと違って地に足つける保証すらない。第三者に発見された際の危険性も先述の通りだ。

さらにタイムマシンで過去に戻った場合には、その際にとった行動一つで歴史を改変してしまう可能性がある。

航時法（作中において制定されている、時間旅行に関わる法律）で罰せられるくらいならまだ良い。因果次第では、現在の自分が存在しなくなる危険性すらあるのだ。

果たしてタイムマシンが手に入ったとして、貴方は安全に使いこなせるだろうか。

そして3位のもしもボックス。

「もしも〇〇な世界だったら」と受話器に伝えると、外の世界がその通りになっているという道具だ。チートやハックを好むオタクは、この道具を挙げがちだったりする。

確かに使いようによってはどんな願望も叶えられるし、こちらは自室で利用すれば使用の瞬間を見られる危険もない。

一見完璧な回答に思えるが、こちらもまた巧妙な罠が存在する。

一つ目の罠は、利用時の「もしも〇〇な世界だったら」という言葉を愚直に叶えるので、利用者の言外の思いを汲み取ってはくれないということ。望んでいた世界とは異なる世界を構築しうるのだ。

これに関しては、てんとう虫コミックス13巻収録『お金のいらない世界』のエピソードが象徴的である。

何を買うにもお金が足りずにひもじい思いを募らせるのび太は、もしもボックスで「お金のいらない世を…。」と宣言する。しかし蓋を開けてみると、ものを買うのにお金をもらわなければいけない世界へと変化していたのだ。

知らぬ間にスリにあってポケットに10万円入れられていたり、高価な壺を壊して1億円を押し付けられたり。

お金を捨てることも犯罪になるという世界で、最終的に首が回らなくなったのび太は元の世界に戻るという話である。

ここにもしもボックスの融通の利かなさが見て取れるが、同アイテムにはもう一つ、手放しで利用できない事情がある。

それは「もしもボックスで構築される世界が、あくまでパラレルワールドに過ぎない」という点である。

これは大長編ドラえもん『のび太の魔界大冒険』にて、決定的な描写がなされている。

大長編におなじみの冒険の過程で、しずちゃんたちが敵に捕らえられてしまう。修羅場から脱したのび太とドラえもんは、才女・ドラミからもしもボックスを借りてすべてを無かったことにする禁断の手を使うことになる。

しかし、ドラミより「もしもボックス利用後の世界はあくまでパラレルワールドであり、元の世界の友人たちは助からない」ことを説明されると、のび太たちはもしもボックスをリセットし、もう一度敵へと立ち向かっていくのだ。

貴方が愛や友情を育んだ大切な人たちは、もしもボックスを使う前の世界に、確かに残っているのである。

この事情を知って、貴方はもしもボックスを使えるだろうか。

このように、定番の道具にも数多くの落とし穴が存在する。

「一つだけひみつ道具がもらえる」という事実を突き詰めると、答えを出すのは意外に一筋縄では行かないことが分かるだろう。

それらの事情も勘案し、あらゆるひみつ道具のリスクを精査した上で、

本当に手に入れるべきひみつ道具とは何だろうか。

前置きが長くなったが、令和を迎えたこの時代に改めてこの問いに対する結論を出してみようではないか。

ということで今回は、「ドラえもんの道具で一番欲しいもの」の問いに対する回答を全力で洗い出す運びとなった。

前もって伝えておくと、今回の記事は長い。

それでも、ぜひ最後まで見届けてほしい。

調査開始

ドラえもんという国民的化物コンテンツは、今日に至るまで非常に多くのメディアミックスを果たしている。アニメや映画だけでなく、ゲームや教材漫画なども数多く存在する。

そこで今回対象とするひみつ道具は、てんとう虫コミックス『ドラえもん』全45巻と大長編ドラえもん全24巻の登場アイテムに限定する。集計の結果、登場したひみつ道具は約 1,120 種類 ものラインナップを誇った。

そして本調査のグランドルールとして、以下を設定する。

1. 対象
対象となるのはてんとう虫コミックス全45巻、大長編ドラえもん全24巻に登場するひみつ道具のみ

2. 利用方法
「道具を一つ」手に入れるのみであるため、その道具にまつわる十分な解説やドラえもんによる補助などが別途付随するものではない。利用にあたって参照できる情報は、1.対象 におけるコミックス内の情報のみである。道具自体に説明書などが付属している場合は、その付属物を参照することは可能である。

3. 複数の禁止
「道具を一つ」手に入れるのみであるため、例えば「四次元ポケット」「スペアポケット」を選択した場合は中の道具は含まれず、ただ無限に収納ができる道具として取り扱う。同じ理屈で「ミニドラえもん」を選択した場合も、ポケットは付属しないものとする。

4. 世界線の区別
今回はドラえもんの作中世界におけるひみつ道具を一つ、現代の我々が手にすることができるという想定であり、ドラえもんの作中世界と我々の世界はまったく異なる世界と考える。（例として、我々の世界の未来にタイムマシンやどこでもドアが開発されているとは限らない。）そのため、「我々の世界の未来においてもドラえもんの作中世界の状況が必要とされる道具」は利用できない。

5. 法律
ドラえもんの世界とは異なる現代世界において道具を行使するため、作中における未来の法律の影響を受けない。
ドラえもんの世界の法律の例.ひみつ道具を使ってお金儲けをしてはいけない、未来を変えてはいけない

6. 作中描写の準拠
ドラえもんは懐事情により中古や安物の道具を利用する傾向がある。いくつかの道具は本来より高品質な製品として存在していると考えられるが、ここでは作中に登場した品質の程度で解釈する。品質と同様に容量や有効期限なども、作中の描写に準拠する。

また、いきなり一つのひみつ道具を選定することは難しい。そのためまずはランク形式を用いて数あるひみつ道具を整理していく。

今回はまずランクA・B・Cを設定し、以下のように定義した。

それでは調査を開始しよう。

調査1. ランクC選定（リスク分析）

まずはランクCの選定について。

ランクCにおけるリスクとは、突飛なユースケースにおけるものではなく通常の利用範囲内で起こりうるものである。具体的には次の3つが挙げられる。

①安全性リスク

まず第一に、重篤な事故の危険性がある道具がかなり多い。他にもたくさんの道具があり不測の事態にもリカバリーが効く作中とは違い、あくまでその道具一つだけがもらえるという前提を忘れてはならない。

ドラえもんのような「ひみつ道具のからくりを知っていて、いざとなると助けてくれる存在」もいないのである。

例: ガリバートンネル…トンネルを通ることで数センチ大まで身体を縮小できる道具。しかし、数センチ大に縮小する場合には昆虫や雑菌など多くの外的環境が危険因子となる。同様の事情で「いっすんぼうし」「ミニ飛行機」などもアウト。

例: とうめいマント…羽織ると透明になれるエロマンガ道具。存在が透き通るわけではないので、交通事故をはじめとした知覚されないがゆえの危険性が格段に上昇する。同様の事情で「石ころぼうし」「モーテン星」もアウト。

例: フエルミラー…鏡に映したものを取り出せるため、左右対称にこそなるが何でも増やすことができる道具。しかし、スイッチを切り忘れると鏡に映った利用者が現実の利用者と入れ替わろうとしてくるサイコホラー。同様の事態を引き起こす「かげがり」「コピー頭脳」もアウト。

②拡散性リスク

基本的にひみつ道具の存在は知られるべきではない。異常現象が発生していること、その発生源が貴方であることがセットでバレる可能性があるとアウトだ。他者を巻き込むものや公の場所で使うものはほとんどがランクCに留まる。

自室で一人だけで利用して、誰にも悟られずに効能が完結する道具が望ましい。

例: タケコプター…安全性も疑問視される道具だが、とにかくこんなもので空を飛んだ日には夕方のニュースは貴方一色である。同様の事情で「エレベータープレート」「ふわふわオビ」など多くの道具がアウト。

例: 通りぬけフープ…壁の先に人がいたらその時点で終了。場合によっては、本来通ってはいけないところを通っている違法性も摘発されうる。同様の事情で「プッシュドア」「取り寄せバッグ」もアウト。

例: コーモンじょう…アナルみたいな丸薬。飲んだあと自分の名前を言うと相手はひれ伏すが、離れると効き目が失われる。相手は「貴方に近づくと精神的に異常な事態になる」という認識を持つため、結果的に貴方の異常性が世にふれ回る事になる。味も不味い。

③波及性リスク

道具の効能を十分に得るには貴方自身が安全であることはもちろん、貴方を取り巻く環境やひいては世界において波乱が起きないことが重要である。

例: ひろびろポンプ…土地を広くすることができる。だが、土地を拡大すると異常気象や洪水へとつながるため、例えば農作物の供給や工業製品の製造がストップする可能性も大いにある。

例: 日本標準カレンダー…カレンダーに専用シールを貼ることでその日を祝日にできる。ただし、本来営業日であるべき日付を祝日にすることでインフラ事故やシステム障害を招く可能性は大いにある。同様に「日づけ変更カレンダー」「時間貯金箱」もアウト。

例: タイムマシン…先ほども挙げたアイテムだが、過去に干渉するとバタフライ効果により現在の環境が大きく変わってしまう可能性がある。貴方は満足な効能が得られるとしても、貴方の大切な人が消失していたらどうだろう。同様に「タイムベルト」もアウト。

このように利用シーンを整理すると、約6割以上のひみつ道具がランクCに収束した。中でも②拡散性リスクに抵触するものが多い。

ちなみにそれ単体で知能を持つ道具や、何かに知能を吹き込む道具もほとんどがランクCである。

前者は束縛が激しい地雷女子「ロボ子」をはじめ「ウマタケ」や「架空人物たまご」など。後者は束縛が激しい地雷女子を呼び出した「精霊よびだしうでわ」をはじめ「モノモース」や「ロボッター」などが挙げられる。どれも利用者がコントロールできる保証がなく、リスク①や②に落ちていく危険性があるものだ。

意思がある道具で性格に難がないものは、一歩間違えるとコミックLO行きの「かぐやロボット」をはじめ「世話やきロープ」「編集ロボ」くらいのもので、数えるほどしかいないのが実情だ。

定番の人気道具の多くもこのランクCで脱落することになる。いくつかピックアップしてみよう。

例えばタイムふろしき。

被せた対象物の周囲の時間を戻したり進めたりできる。人間に使用すると、若返りや怪我の完治もできる大人気アイテムだ。

一見メリットしかないように思えるが、逆行させる時間のコントロールが難しいという欠点がある。

同アイテムが初登場するてんとう虫コミックス2巻『タイムふろしき』では、風呂敷が被さるだけで利用者の意思がなくとも人間や植物が退行する描写がある。さらには、欲をかいたスネ夫の母親がワニ皮のハンドバッグにタイムふろしきを被せ、次の瞬間生きたワニが現れたというシーンも印象的である。

ワニ皮のバッグに使うなんて趣味の悪いことはしないよとタカを括っていては危険だ。例えば、風呂敷を被せた製品に鉄が使われていたとしたら？

製鉄工程において、鉄鉱石は2,000度以上の高炉で融解する。そんな状態の銑鉄が突如手元に出現したらどうなるだろう？鉄以外にも、生産工程で有害物質を発生させる原材料は多く存在する。

もちろん、他のエピソード含めドラえもん自身はしっかりと時間調節をおこなって利用できている。ただ、今回ひみつ道具を使うのは貴方一人で、ドラえもんはいない。安全に取り扱いできる自信は、本当にあるだろうか？

続いてはソノウソホント。

口に装着して嘘をつくと、その嘘が現実になるというクチバシ型装置だ。作中ではのび太がクチバシをつけた状態で「父さんは自転車と望遠鏡を買ってくる」と口にし、それが実現したというシーンがあった。

しかしここで重要な点は、のび太の父・のび助の購買行動は本人の意思とは反するものであり、母親にそれらを買った理由を聞かれ「僕にもさっぱりわからん」と説明している。これではシラフに戻ったあと返品や売却をしかねない。また、意思と関係なく高い買い物をしたのび助は、きっとこの後何かしらのカウンセリングを受けに行くだろう。

願望実現系の道具の効能を考える上で「因果や関係者の感情について、あくまで自然な状態で実現に至っているか」という点は重要だ。

なお、上記を満たし、現実的な因果の中で願望を叶える道具として「アトカラホント」「あらかじめ日記」なども存在している。（後述するが、これらのアイテムは一気にランクA以上に躍り出る。）

このように、人気のひみつ道具にも思わぬ落とし穴が存在しているのだ。

ランクC選定を経て 364個 のひみつ道具が次のステージへ移ることとなった。それでは続いてランクBの選定に移ろう。

調査2. ランクB選定（効能分析）

ランク定義表を再掲しよう。

ランクBに該当する「効能が高くない」という状態は、具体的に以下のパターンが存在する。

①時代錯誤パターン

時は令和。現代の技術で代替できる効能や、そもそも現代の生活様式と合わない道具も多数存在する。

例: ヤカンレコーダー…ヤカンに言葉を吹き込むことで録音ができ、出た水泡を割ると吹き込んだ音声が流れる。ただただ場所を取りすぎるボイスレコーダー。

例: 通話よこどり電話…コードの先をこっそり相手の電話に繋ぐことで、自分が代わりに通話に出ることができる。固定電話が廃れたスマホ全盛の現代ではどうにもこっそりできず、活躍が難しい。

他にもプリント写真や手紙（郵便）での連絡などを前提とした道具も、ここに収束した。

②併用想定パターン

「どれか一つ」という条件下では有用でなくなる道具も多数。スモールライトやガリバートンネルで身体を小さくしないと使えない道具なども散見された。

例: チルチルペンキ…普通の鳥に塗ることで幸せの青い鳥にする。捕獲道具「ミチルアミ」とセットで利用する必要があるという、なんとも時代を感じるネーミングの一品。同様の事情で、ものを地中に隠したり取り出したりできる「うかび玉」「しずめ玉」などもセットでアウト。

例: 宇宙完全大百科端末機…明日の宿題の回答から未来の誰かの写真まで、あらゆる情報を得られるアカシックレコード。未来には全ての情報がディスクに収録されて宇宙空間に浮かんでおり、これに端末機から参照リクエストを送るというものだ。

一見非の打ち所がない道具に思えるが、これを利用するには未来に宇宙完全大百科が存在していることが前提になる。今回たとえ端末機だけを入手しても、グランドルール4より、我々の世界の未来に宇宙完全大百科が完成している保証はない。よって、この道具も単体では機能しない可能性が高いのである。

例: ハツメーカー…要望を伝えると、実現するための道具の設計書を出力してくれる準チートアイテム。本テーマでもよく名前が挙がる強力な道具だが、作中では「材料箱」というどんな材料でも取り出せる工具箱を併用していた。すなわち材料に未来の道具が含まれていると、その時点で終了なのである。

ハツメーカーに関しては、才女・ドラミの「説明どおり作ればかんたん」という台詞から万能な印象を持つ人も多い。ただし時の流れを変えたり、物体を無から実体化させたりといった技術が、現代の一般庶民が手に入る材料で実現できる見込みは薄いだろう。

作中におけるのび太の制作シーンも器具を接合するなどの単純な作業のみ。出ている工具もペンチやカッターなど日曜大工の域を出ていない。プログラムを書いたりしている様子もないため、基本的には材料箱からある程度仕上がった部品を取り出し、組み合わせて作っていると考えられる。

③効能不足パターン

利用にあたって危険はないが、肝心の効能が少なかったり、需要が局所的であったりする道具。実はこの類がかなり多い。

例: マジックおなか…ヘソ型の受信機を相手に取り付けることで、遠隔で人のおなかをくすぐれるという完全なるオーバーテクノロジー。同系統には「マジックおしり」というエロ漫画顔負けの道具もある。

例: 秘密書類やきすて銃…機密文書を確実に消滅できる銃。このように一部の人間には有用だが一般庶民には無用な道具も多い。集中すると漫画が浮かび上がるアシ要らずの「念画紙」や、特撮映画が簡単に撮れる「イージー特撮カメラ」なども、局所的な効能であると判断する。

ドラえもんにおけるストーリーの特性上、冒険や戦争、喧嘩などのシーンで有用な道具も多い。少年心にはワクワクするものの、いざ現代社会の通念で考えるとこれらの道具はランクB止まりと考える。絶対に喧嘩で勝てる「けんか手ぶくろ」や、名前からしてイカつくて仕方ない「ミサイルつき原子力潜水艦」などは、多くの人にとって無用の長物だろう。

さて、ランクB選定を経て 80個 のひみつ道具が次のステージへ移る。それでは続いてランクAの選定に移ろう。

調査3. ランクA選定（スクリーニング分析）

ランク定義表を再掲しよう。

ランクA以上もあれば、「欲しいひみつ道具」の回答としては申し分のないものになる。

一覧を少しだけ見ても、なかなか骨のある道具ばかりだ。どれも自室でひっそりと使えるか、外で使用してもバレにくいものになっている。

ここから先はもう道具の確実な欠点を挙げられる段階ではなく、他と比べて少しでも劣っている点を見出すような「ふるいにかける（スクリーニング）」作業が必要だ。

ということで、ランクAの道具の中でも傑出したランクSを定義するため、我々は以下のような選定項目を用意した。

①カテゴリ選考

1,000ものひみつ道具の中には、似たような効能を得られる道具が複数存在する。それらをカテゴリで分けたとき、同一カテゴリの中で一番優秀な道具のみがランクSに駒を進めると考えるのは自然だろう。

例えば金銭を得る道具としては以下のバリエーションがある。

一覧するとお分かりの通り、もうフエール銀行だけあれば良い。

デビルカードに関しては、のびドラは作中で「ビッグライトでデカくしてから身長を削ってことなきを得る」というタイムパトロールもびっくりのハックをかますわけだが、今回の条件に適さないことは言うまでもない。

次は「時間」を得られる道具について。

一部趣向による差異はあるが、基本的には時間が緩やかに流れるよりも時間そのものを停止できる方が上位だろう。

なお、時門や時間貯金箱に関しては世界中で「6時かと思ったらまだ2時だった」みたいなことが発生するため、あらゆる事故を招くことが想像できる。これらは先のランクCにてお蔵入り済みである。 

また、このカテゴリでは首位のアイテムが同じ効用で2種類存在するが、この場合はメジャーなタンマウォッチの方を採用する。なぜなら今回の主題は「もしひみつ道具を一つだけ〜」という質問への回答。「ひみつ道具？んー、俺ならウルトラストップウォッチかな。あ、タンマウォッチと一緒なんだけどね笑」という通ぶりはキショいからである。

同じ理由で「グルメテーブルかけ」と「北風のくれたテーブルかけ」でも前者を採用する。

最後に「願望実現」系道具について。

アトカラホントは極小のスピーカー型装置であり、作中描写から判断するに願望実現系では最強の部類。口に常時入れておくと破損の危険性があるため、プロテクトするためのマウスピースなどを用意し、自室で願望を宣言するときだけ装着してそれ以外は厳重に保管するのが吉である。

カテゴリ下位にはどうしようもないカスアイテムが勢ぞろい。しあわせトランプみたいなもんを部屋にポツンと置いておくドラえもんも中々にロックである。

このようにしてカテゴリ上位アイテムだけを選定しつつ、次の基準に移ろう。

②娯楽選考

「単純な娯楽」が効能である道具に関しては、ランクSの選出は見送るべきであろう。これに関しては数が多いため、一部を抜粋すると以下のようになる。

最高の漫画、アニメ、本、すべらない話、ギャグ、AR。それぞれ素晴らしい効能だが、漫画に飽きたら、笑い話に飽きたら、そこで終わりなのだ。

昔はアニメをよく観ていたけれど、アニメがつまらなくなったわけでもないけれど、いつの間にかアニメ自体を見なくなった。そんな経験がある人も少なくないのではないか。

また、作品の面白さとは多くの人にとって他者と共有することで最大化される。ひみつ道具の存在に近づかれたくない以上、一人でしか享受できない娯楽作品というものは虚しさが募る一方だろう。

③破損選考

これはランクCよりも一歩踏み込んだリスク分析である。もしも、利用中に道具が破損したら。

そのケースを想定したときに、ただ道具が使えなくなるだけで終わる場合と身の危険に繋がる場合が存在する。後者の道具として代表的なものは以下になる。

かべがみハウスについて重要なのは、外の世界と重力方向が同一である点。コミックス9巻『かべ紙の中で新年会』には、トイレの壁紙がドアから剥がれ落ちて空間の天地がはちゃめちゃになり己の尿をひっ被ったスネ夫の姿がある。

トイレという狭い空間だったから尿被りで済んだものの、もし通常の部屋の中で急に天地が変わったら。どこに頭をぶつけてどんな事態になるか想像に難くない。

人生やりなおし機も非常に魅力的な道具だが、これはフルダイブのシミュレーション装置であり、利用した世界線では利用者の身体は装置に繋がれたまま眠るように存在している。すなわちこちらも“やりなおし中”に装置が故障したら、元の世界に戻ってしまうか、最悪の場合は精神自体が無に帰してしまう可能性も考えられる。

“やりなおし”をしている間の元の世界の時間も進み方も、作中描写が十分でないため様々なリスクがある。ドラえもんによると10年程度の”やりおなし”は可能なようなので身体が朽ち果てることはなさそうだが、貴方が一向に部屋から出ないことが事件性を帯び、誰かが突入して貴方を装置から外したらどうなるか。挙動の不確かさがある以上、リスクは確かに存在する。

④代替選考A（フエール銀行）

先に挙げた通り、フエール銀行という暴利で儲かるとんでもない道具がある。これを踏まえると、ランクS以上の世界は金銭では叶えられない効能が揃っているべきである。

ちなみにフエール銀行を論じる際の「出所不明のお金について足がついたら危険」という問題に関しては、資金洗浄をおこなうことで基本的には解決するものと結論づけている。

資金洗浄と言っても、闇の業者からクレカを買ってどうこうするイリーガルなものではない。フエール銀行のお金を元手にして、ギャンプルや投機などで足がついても構わないお金に洗い替えしてしまえば良いのだ。一定額のどうなってもいいお金があれば、それを増やしていくことは現実的に可能なのである。

手元に十分な金銭があると考えれば、例えば以下の道具はその価値が大きく減少すると考えられる。

もちろんきせかえカメラに関しては、瞬時の製品化という意味では完全な代替にはならない。しかし「その道具でなければ叶えられない効能」が、ある程度縮小する事実は否めないだろう。

⑤代替選考B（アトカラホント）

先に挙げた通り、アトカラホントという言語化できることなら何でも叶えられる道具がある。

ご覧の通り、フエール銀行すらも下位概念となってしまった。

アトカラホントは自然な経緯で願望を叶えてくれる。この道具で実現性が怪しい効能は、時空を超えるなどの超技術的なものや、感情にダイレクトに影響するものに絞られる。

⑥代替選考C（タイムテレビ）

タイムテレビとは、時間と場所を指定するとそこでの光景を視聴できる違法性バツグンの道具である。

時間や空間を超えて情報を得られるひみつ道具は多い。覗きのような違法行為から学術研究まで用途は様々であるが、それらのほとんどがタイムテレビで代替できてしまう。

やくよけシールの代替に関しては少しテクニカルだ。そもそもやくよけシールとは、お腹に貼ってさえいれば失敗のない人生が送れるアイテムである。プロテクト加工や粘着シートを慎重に併用すれば、耐久性も維持できそうなスグレモノだ。

ただし結局のところ人生とは、細かい失敗なら挽回が効くのである。貴方はタイムテレビで1ヶ月ごとの自分の状態を確認し、クリティカルな災難が起きていないかだけ確認しておけば良い。どこかのタイミングで重大な事故や病気にかかっている様子が確認でき次第、さかのぼって対策をすれば、それでやくよけシールの効能はほとんどカバーできる。

こうして、ランクA選定を経て 7つ のひみつ道具が次のステージへ移ることになった。

さあ、いよいよ大詰めだ。

調査4. ランクS選定

ここでランクSに選定された、映えある 7つ のひみつ道具を紹介しよう。

ここに選定された道具であれば、基本的にはどれを答えても大正解だ。裏付けとなる論理も、他の道具に対する比較優位性も十分に主張できるだろう。

本調査の過程で散っていったおせじ口紅（塗るとお世辞が上手くなる）や音楽イモ（食うと屁で音楽を奏でる）の思いを一身に背負った、堂々たるラインナップである。

人間とは知を探求し真実を追求する生き物であるとして、「oxうらない」をチョイスするのもアカデミックで奥深い。

人生とはとにかく幸福であればそれで良いのだとして、「ハッピープロムナード」をチョイスするのも渋くて味のある生き様だ。

さて、そんな十人十色の選択肢だが、本記事では結論を出さなくてはいけない。

このSランクのひみつ道具の中でも、さらなる傑出した存在とは。

結論. すべてを凌駕する最強の道具とは

これまでの調査において、一切触れてこなかったひみつ道具がある。

魔法辞典 をご存知だろうか。

魔法辞典とは全ページ白紙の辞典であり、これに魔法の内容と発動条件を書き入れることで、世界中（実際の影響範囲は不明）の人間が記載した魔法を行使できるという、作中屈指の影響力を持つ道具である。

上記は実際にのび太が定義した魔法である。実行中の魔法を停止するには、発動条件をあべこべにおこなう（上の例だと「イスイース」と唱える）か、ページ自体を破り捨てる必要がある。また、発動条件は呪文だけでなく「頭を三回かく」のようなアクションでも定義できる。

この魔法の内容に他の道具の効能を言語化して書き入れれば、すべてがこの一冊で完結するのだ。

作中における失敗例として、呪文が長すぎてとっさの状況で発動できなかったり、同じ呪文やアクションを他の人が実行して発動してしまうといった描写がある。

前者に関しては散々言及した通り自室で静かに能力を行使すれば良い。後者に関しても、工夫次第で自分にしか発動できない条件を定めることが可能だ。

上記は単なる一例である。出生情報とマイナンバーを併用しているのは、利用者が対象として一意に定まるための二重パスだ。自分の身体を特殊な方法で触れながら複雑な呪文を唱えることで、条件はほぼ完全に属人化できるだろう。

魔法を停止させる場合、“あべこべ”の定義は少し模索する必要がある（上記の例の場合は、呪文を反対に唱えるのか、くわえて左耳と右膝裏を触ることになるのか、など。）が、急停止の必要がない魔法を実行してゆっくりと試せば良い。

うまくいかなければ、ページを破り捨てるという方法もある。リセット処理が容易な点も魅力的だ。

それでも発動条件の定義に不安がある場合は、条件はひたすらに長い呪文などにしておいて、強力な魔法を実行しては、すぐさま再現されないようページを破るといった使い方をしても良いだろう。発動回数に限りは出てしまうが、辞典という形態であるため十分なページ数も保有している。

兎にも角にも、これ一冊あればオールOKなのである。

以上のことから、「もしもドラえもんの道具の中で一つだけ貰えるとしたら」の問いに対するベストアンサーは、

魔法辞典 である。

果たして、それがすべてだろうか。