油で揚げた豚肉と素揚げした野菜を混ぜ、そこに甘酢のあんを絡ませた中国料理「酢豚」は日本人にもおなじみの存在だ。
酢豚に使用される具材は豚肉の唐揚げとピーマン、玉ねぎ、ニンジンなどの野菜が中心である。
元々は傷んだ肉を美味しく食べる方法として確立された料理と言われるが、今では日本の学校給食に出てくるほどのポピュラーさを誇る。
そしてこの酢豚には度々、甘みや酸味をもたらす名目でパイナップルが入れられることがある。
このパイナップルは酢豚の甘酸っぱい食味を増大させるだけでなく、肉を柔らかくする効果があるとも言われている。
そう言われると理にはかなっているものの、この酢豚に入ったパイナップルが苦手な人も多いだろう。
タレが絡んだ豚肉や野菜と、酸味のある果物がうまく共演してくれるのはまた別の話だ。
酢豚に入ったパイナップルというものは、一部では鼻つまみ者の代名詞としても扱われつつある。
もしもパイナップルと酢豚の立場が逆転して、
「パイナップルに入った酢豚」になればどうだろう。
酢豚に紛れ込んでいるから邪魔者扱いされるわけで、パイナップルが酢豚の中で勢力を拡大すれば、見方も味も変わってくるのではないか。
酢豚に入ったパイナップルではなくパイナップルに入った酢豚に出会えることができれば、我々も新たな味の境地にたどり着くことができるはずだ。
ということで今回は、酢豚とパイナップルの比率が何対何になったとき、「酢豚に入ったパイナップル」から「パイナップルに入った酢豚」に切り替わるのかを検証する運びとなった。
この酢豚とパインの臨界点に、中華料理の極意があると信じて調査を開始しよう。
検証開始
今回は酢豚を複数皿用意し、具であるパイナップルの量を段階的に増やして試食していく。
そして今回試食者を務めるのが次の人物である。
桐生…日頃から料理に勤しみ、中華料理も得意。大学時代の語学は中国語を履修していたが、習得できないまま見た目だけ中華マフィアみたいになって終わった。
それではまず「酢豚:パイナップル」の比率が「9:1」である標準形からスタートし、パイナップルのシェアを徐々に広げて、最終の「1:9」まで1段階ずつ量を変えていく。
桐生には各比率の酢豚を試食後、食べた酢豚に対して上記の札をあげて判定してもらう。
「パイナップルに入ってる酢豚」の札があがった時点で検証は終了とし、その比率が今回の検証結果ということになる。
それでは早速見ていこう。
酢豚:パイナップル = 9:1
まずは比率9:1の酢豚から。一般的なパイナップルが入っている酢豚よりも少し控え目な割合だ。
果たしてこちらは酢豚に入ったパイナップルなのか?それとも…
少量のパイナップルが入った酢豚に舌鼓を打つ桐生。
果たして酢豚:パイナップル=9:1の酢豚の結果は、
比率1:9は流石に「酢豚に入ったパイナップル」という結果であった。
ちょうど酢豚自体も邪魔せず、皿の隅でひっそりとパインが息づく。実はこの比率が酢豚の正解なのかもしれない。
どんどん見ていこう。
酢豚:パイナップル = 8:2
ややパイナップルが多くなり、バカンス風味の酢豚といった印象である。
着皿時の印象としては、ややパイナップルが目につく。
それでもまだ鼻にはつかないほどだ。
ちょっと「パイナップルが多く入ってます」って注意書きは必要かもしれません。
結構パイナップル、うるさいので。
このレベルではまだまだパイナップルもまともに勝負をさせてもらえないみたいだ。
続いて7:3を見てみよう。
酢豚:パイナップル = 7:3
ややパイナップルが前に出てき始めた風貌だ。見た目通り、そろそろ黄色信号ではある。
パクッ
華僑が作った、中華料理風のエスニック料理って感じです。
ここまで9:1、8:2、そして7:3と、迷いなく「酢豚に入ってるパイナップル」の判定を下す桐生。
そしてこの7:3まではパイナップルを増やしても味に悪影響はなさそうだ。
酢豚:パイナップル = 6:4
続いて6:4の酢豚であるが、ようやく実力が拮抗してきたような皿の様子だ。これに関しても桐生は冷静に箸を進める。
ここまで4皿。酢豚とパイナップルの力関係は未だ歴然で、立場が逆転する気配は一切ない。
そして次の酢豚で、この日初めて彼らの比率が同じになる局面を迎える。
酢豚:パイナップル = 5:5
本日5皿目にしてようやく酢豚とパイナップルが同じ量での一騎打ちだ。酢豚部分の慎ましさをも感じる逸品である。
酢豚とパイナップルの配分を考えながら食べないと大変なことになりますよ。
これは流石に休みすぎです。
今回ばかりは苦言を呈さずにはいられない桐生。
果たして比率5:5の酢豚の判定は、
「酢豚に入ってるパイナップル」だった。
境界線はまだ先なのかもしれませんね。
前半を終えてまだまだ「酢豚に入ったパイナップル」が優位に立っているという状況だ。だがここから先は勢いを増したパイナップルが酢豚を迎え撃つ。
それはすなわち、その装いも変化を求められる次元に行き着くのであるが。
酢豚:パイナップル = 4:6
晩夏のパイナップルステーキ、酢豚を添えて といったところだろうか。
輪切りのパイナップルは酢豚では例を見ない。極めて不思議な光景だ。
酢豚とは別に純粋なパイナップルがそこに存在するこの比率4:6の酢豚であるが、果たしてその判定は、
ここでも「酢豚に入ってるパイナップル」を逆転できず。
酢豚の量を逆転してもなかなか「酢豚に入ったパイナップル」を超えることができないようだ。
酢豚:パイナップル = 3:7
比率3:7を実現することで、徐々にパイナップルがそびえ立ってきた。
皿中央に鎮座するパインタワーはかつての酢豚の常識を覆す様相を呈する。
もはやその下を流れる酢豚さえもパイナップルと同量という、メインが完全にパイナップルに切り替わった料理だ。
散々の言いようであるが、結果ははたして…
比率3:7でもダメだった。
まだそれの発展形の枠は出ていないですね。
酢豚:パイナップル = 2:8
本日8品目は、パインタワー酢豚仕立て、パインジュースと共に だ。
ようやく酢豚の方がつまはじき者らしくなってきた。
いくらパイナップルの量を増やそうとも、それはただ酢豚の中でパイナップルが増えつづけているだけという現実。
幾ら何でもその主語と述語を入れ替えることは不可能なのだろうか。
そして我々は比率1:9という最後の扉を開放した。
酢豚:パイナップル = 1:9
パカッ
試食前から思わず判定を口にしてしまう桐生。
最後の最後1:9の勝負にて、我々が投入した切り札はついに彼の心を動かした。
見た目もなんか、千疋屋にあっても良さそうだし。
パイナップルをどんぶりのように持って酢豚を平らげる桐生。
この日最後の比率1:9の酢豚。
果たして判定は、
酢豚9皿までに及んだ今回の検証が終了した。
結果、「酢豚に入ったパイナップル」から「パイナップルに入った酢豚」に変わる瞬間の酢豚とパイナップルの比率は、
(酢豚)1:9(パイナップル) であった。
総括
皆さんもパイナップルの量には注意して、バランスの取れた良い酢豚ライフを!
完
まぁ、実はこのくらいのパイナップルの量がベストかもしれません。