『美味しんぼ』は、1983年より『ビッグコミックスピリッツ』にて連載を開始したグルメ漫画である。
累計1億3500万部を発行し、アニメ化にドラマ・映画化とメディアミックスも多岐に渡って展開されている。日本のグルメ漫画の代表的な作品だ。
新聞社勤めの主人公・山岡士郎が、「究極のメニュー」の探求を通じて様々な人物の悩みを解決していくストーリーが基本であるが、
この『美味しんぼ』第4巻に収録されている「板前の条件」の中で「このあらいを作ったのは誰だぁ!!」という有名なセリフが登場する。
これは士郎の因縁の相手でもある美食家・海原雄山が、自身が主宰する会員制料亭「美食倶楽部」にて、出された料理「あらい」を口にした直後言い放ったセリフである。
その「あらい」を作った料理人・岡星良三は理由も聞かされずその場でクビになるのだが、後に、良三が調理の直前に緊張をほぐすためにタバコを吸っていたことが明らかになる。
作中で良三は、手も洗ってうがいもしたので喫煙には気づかれないと思ったと語るが、良三の手からあらいに移ったわずかなヤニの臭いを雄山は見逃さなかったのだ。
繊細な味の判断が求められる料理人にとって、味覚と嗅覚を鈍らせる喫煙はもってのほかというわけであり、雄山の食に対する厳しくも鋭い姿勢が象徴的なエピソードになっている。
それにしても、タバコを吸った手で作ったというだけで、料理についたヤニを感じ取るのは並大抵の所業ではない。
喫煙しながら調理された料理を食したとき、我々もまた、海原雄山のように気付けるのだろうか?
美食家ではなくとも我々の生活は日々「食」から成り立ち、「食」に根差し続ける。一食一食を重んじる雄山のストイックな姿勢は、我々も見習うべき点がきっとあるだろう。
ということで今回は、タバコを吸いながら作った料理を、調理過程を一切見ていない人が食して、タバコを吸ったことに気付けるのかを検証する運びとなった。
本検証を通じて雄山がどれほどの高みにいたのかを実感し、改めて我々の日々の食への姿勢を見つめ直そうではないか。
検証開始
今回は次の人物によって検証を進める。
ごどう…当サイトの企画スタッフ。今回は実食担当。美味しんぼは全巻を読破しているため、食への飽くなき探究姿勢は少なからず持ち合わせていると予想される。ヤニの察知にも期待がかかる。
桐生…当サイトの企画スタッフ。今回は調理担当。普段より料理に励んでおり、食材選びにもこだわるなど研究熱心な男である。本場イタリア料理人の動画を観すぎて、イタリア語を少し聴き取れるようになったらしい。
今回は桐生がタバコを吸いながら作った料理をごどうが食べていき、ごどうが桐生の喫煙に気付けるのかどうかを検証していく。
もちろんごどうには調理風景は一切見せず、あらかじめ「タダで真剣にご飯を食べてもらう」企画とだけ伝えている。
キッチンでは換気扇を回し、料理を運ぶ際の匂いで気づかれないよう対策をとる。そこは、作中の良三ばりに細心の注意を払う。
ごどうが喫煙に気づけなかった場合には次の料理へと移り、その際の喫煙レベルを上げて気づけるラインを見極めていく。
今回は最多で5品まで料理し、ごどうに提供していく。
それでは早速、検証を始めていこう。
一品目
おもむろにトマトを取り出し調理を開始する桐生。
一品目は「トマトとモッツァレラのカプレーゼ」。イタリアンマフィアのような風体の男が、イタリアンの前菜を作っていく。
いやぁ、緊張するなぁ…
一品目の喫煙量はまずタバコ1本から。おそらく良三とも同程度であろう。
ここで見破ることができれば、ごどうは雄山と同じ高みにいることが証明される。
そして2吸い、3吸い。
作中で良三は厨房の外でタバコを吸っていたが、今回はキッチンのど真ん中である。すでに料理人としての失態ぶりは本家を超えている。
食材に手をかけながらも常に喫煙はやめない。これはこれで、サンジみたいでかっこいい。
素早い手作業でトマトとモッツァレラチーズを切り終わる。カプレーゼとしてはこれで8割方が完成だ。
そして息をつく間も無く一服。
タバコの煙がカプレーゼへと吹きかけられる。最悪な形でチーズがスモークされている。
もちろん、ごどうはそんなことを知る由もなく、まだ見ぬ料理に心を踊らせる。
そして仕上げにオリーブオイルを全体にかけ、
塩、バジルをふりかけて調理は完了。
新鮮なトマトとモッツァレラチーズを贅沢に使った、桐生特製カプレーゼ…
スモーキー仕立てだ。
ガチャっ
ごどうの味覚と嗅覚を確かめる、ジャブ的な一品。果たして、桐生の喫煙に気づくことはできるのか。
ヤニの存在に気づくには十分すぎる量を口に運んだごどう。
彼は、海原雄山になれるのか。
雄山にはなれなかった。
いいものをいただきました。ご馳走様です。
ごどう、そのまま気づかず完食。
1個のトマトと1個のチーズ、そして1本のタバコを丸々使った一品目・カプレーゼは、無事平らげられた。
ほのかな香りが鼻腔をくすぐりますなどとほざきながら、ヤニのくすぐりには一切反応できない、鼻腔マグロであった。
一品目ではタバコに気づかなかったので、そのまま二品目へ突入することに。
二品目
桐生が二品目に選んだ食材は鶏ササミだ。
そして一品目の喫煙量ではごどうに気づかれなかったため、今回は喫煙レベルを上げ、
3本同時吸いで、調理を進めていく。
鶏ササミを袋から取り出し、フライパンへ投入。
カチカチカチ、ボウッ
今回の調理では、桐生は生のササミを蒸していく。決して火を通しすぎず、表面には少しの焼き色をつけていく。
絶妙な火加減と水の量と、膨大な量のヤニがポイントだ。
そして最後に、刻んだ大葉とネギを蒸したササミの上にまぶし、
彼の作品は完成だ。
二品目は、蒸しササミの大葉ネギである。
ヤニの香りには気づけないごどう。タバコ3本でも難しいようだ。
ここで雄山の3分の1以下のポテンシャルであることが露呈した。
一品目からタバコを2本増やして調理した今回、ごどうの舌はどんな答えを出すのか。
タバコが3つなのだ。
そうですね、確かにレアめで作るのも良いんですが。
料理とは安心の上に楽しみが成り立つものだと、不肖ながら考えております。
流石の判断です。とっても美味しいよ。
まだまだタバコに気がつかないごどう。
仕方がないのでまたも喫煙レベルを上げ、三品目の料理に取り掛かる。
三品目
タバコを葉巻へと進化させ、おまけにウィスキーとガウンも追加。装い新たに三品目へのチャレンジが開始する。
三品目はカルボナーラだ。慣れた手つきで素早く生卵をかき混ぜていく。
そこにありったけのパルメザンチーズを投入する。ここでのチーズの量の思い切りが肝要だ。
そして葉巻を吸いながら、思案を巡らす。
カルボナーラ作りにおいて一番大切なのはスピードと火加減である。
使うのはショートパスタの一種・リガトーニ。カルボナーラのパスタは太ければ太いほど良い。その究極がリガトーニである。
自らの舌で吟味した経験と、確かなデータに裏打ちされた桐生のカルボナーラが、そこにはある。
葉巻を燻らす男のこだわり。この出で立ちの男の作るパスタはなんだかエロくなる。
三品目の完成だ。
これが、桐生特製カルボナーラである。
裕次郎スタイルも虚しく、真のスモーキーの要因を突き止められないごどう。
仕方がないのでさらに喫煙レベルを上げて次の一品へと移る。
四品目
四品目で吸うタバコはいよいよパイプに。喫煙の大人度合いをグッと上げた今回、結果はいかに。
そして四品目の料理は鍋。まずは切った白菜を投入。
鍋の調理には待ち時間も存在する。そんなとき、桐生は手にひとつまみの塩を振りかける。
喫煙以外のレベルも大分上がってしまったようだ。
桐生の鍋が、煮立った。
蓋を開けた瞬間にキッチンから立ち昇る煙は、鍋によるものか。はたまた。
四品目。鍋の具材はシンプルに白菜と鶏肉だけ。彼が全幅の信頼を寄せる2品だ。
態度だけは海原雄山顔負けだが、舌の程度は富井副部長レベルのごどう。
後が無い我々は、最後の五品目にすべてを賭けることにした。
五品目
ラスト五品目、なんとかごどうに気づかせるため、我々はシーシャ(水タバコ)を解放する。
五品目の料理に関しては、先程の鍋に生米を加えて炊き、締めの雑炊を作っていく
その料理と同じくらい場所を取るのが、シーシャの難点である。
厨房で料理人がこれやってたら、
ついに五品目の完成だ。
ストレスで行くとこまで行った良三だと思ってください。
ガチャ。
ズズズ。
結果、ごどうは五品目のシーシャにてタバコに初めて注意をした。
企画説明
結論、一般人は前情報を聞いても何も分からない。
総括
いかがだっただろうか。
実際に調理の現場を見ない限り、やはり口にしただけで料理人がタバコを吸っていることを見抜くのは至難の技であった。
我々が日々いかに漫然と食に触れているか、見つめ直す良い機会になっただろう。
それは幸せでもあり、危険なことでもあるのだ。
もしもこれから先、我々にも生きていく上であらいの風味がどうやらヤニ臭い、違和感を感じるという場面が来るかもしれない。
そんなときは気をつけて欲しい。我々の実力では、そんなときはもう既に、
厨房でシーシャが大煙を上げているのだ。
完