東京という街には、遊びの選択肢が多く存在する。街を構成する要素が密度高く配置されており、あらゆる刺激が同時多発的に展開されているからだ。
この東京の中に身を置くという行為そのものが、ある種のレジャーとして成立する都市構造を持つ。
そうした環境において、「遊ぶ」とは必ずしも一義的な行動を意味しない。
ショッピング、鑑賞、飲食、交流、探索。東京が提示する選択肢は膨大であり、その多くは瞬間的な判断によって取捨選択されていく。
東京における「楽しみ」は無数に存在しており、東京都民ですらどの過ごし方が一番満喫できるのか、日々頭を悩ませている。
どれほどの時間をかけ、どれほどの資源を投入し、どのような軌跡を描いたときに「満喫した」と言えるのか。
都市と個人のあいだに横たわるこの問いは、その都市で過ごした重厚な経験値を持ってしか答えられない、奥深い問いである。
今回は「1万円」というひとつの金額を基準として、この問題にアプローチすることにした。
1万円という金額は、都市生活における一日の消費額としては中間的な位置づけにある。ある人にとっては十分であり、別の人にとっては物足りない。
予算1万円でのベストエフォートこそが、東京という都市の密度を分かりやすく提示してくれるはずだ。
ということで今回は、予算1万円で東京を満喫する1日を過ごす運びとなった。
都市と金額がどのように接続されるかを観察し、本日東京の一つの解としてこれを提示することとする。
予算1万円で東京満喫開始
夏本番の暑さが顔をのぞかせ始めた7月某日、我々は今回の「予算1万円東京満喫企画」のスタート地点である代々木駅に集まった。
今回は当サイトの東京を熟知したスタッフに1万円を渡し、使い方は指定せず自由に東京を満喫してもらうという流れだ。

– お疲れ様です。本日は1日よろしくお願いします!
長谷川…当サイトの企画スタッフ。東京都出身で東京をこよなく愛するシティボーイ。好きなアーティストは東京事変。好きな大学は東京大学。好きなテレポートは東京テレポート。

– ありがとうございます。長谷川さんも気をつけてください。
– それでは早速10000円をお渡しします。

– そうですね。こちらを使って長谷川さんなりに東京の堪能方法を提示いただければと思います!


– はい。まずはどちらへ向かいますか。


– わかりました。何で行きますか?

– はい。時間もありますし、良いですね!

– 構造が複雑なので、1駅2駅でもドアツードアだと時間がかかったりしますね。

– さすが。街を熟知していますね。

とはいえこの暑さですからね。水分補給や休憩も忘れずに。
– そうですねぇ。

– 休憩していきますか?

ちょっと自分のバッグ貸してもらってもいいですか。
– はい、どうぞ。



– なるほど。しっかり準備されてきたんですね!

– この季節、大切な用意ですね。

– 楽しみです!

– これが新宿御苑の入り口ですね。荘厳な構えです。

– 聞いたことのない花も多いですね。楽しみです!

– 早速入っていきましょう!

– あ、入るコースがあるんですね。



– フェンス越しにですか?




– 入場しないんですか?

– なるほど。勉強になります。

– お昼にしましょうか。
– この辺だとオシャレなお店も多そうですね。

ちょっとバッグ貸してもらえますか。
– あ、はい。


– そうだったんですね。







– 次はどちらへ行きますか


– いよいよショッピングですね!


– 無印に置いてあるってだけで、なんか良さそうに思えてきますよね。

– いいじゃないですか!似合いますよ!

– ほんとだ。お金も全然残ってますよ!
カチャッ

– 何も買わなかったんですね。

– 歌舞伎町にきましたね。

– なるほど、ここならお金使ってもいいぞ。という店を選び抜くのが大事なんですね。
– 映画ですか!いいですね、休日らしくなってきました。

– どういうことですか。


– 今から観れますよ。

– 映画観てから来ましょうよ。
カチャッ
– カチャじゃなくて。
ウィーン
– ウィーンじゃなくて。

– あんま食べてないですからね。

東京にもたくさん神社あるじゃないですか。

– なるほど。今日はお参りなどされるんですか




– そんなトイレだけ借りに来たみたいな。

– 夏なんで明るいですが、そろそろ夜ご飯の時間ですよ。


– サンドイッチ買ったんですか?

– それも持ってきたんですね

グビビッ

– おお、靴ですか。

– 靴は結構しますよ。予算も結構ありますが。


– なんかこう、全然荷物増えないですね。
– だいぶ日も落ちてきましたね。

– そろそろ夜ご飯って感じですか?

– あ、はい。あれがもう、そうなんですね。

– 今日は次の場所で終わりですか。

– ドンキですか。

– ちょっと人が多いので私は下にいますね。

15分後

– あれ、何か買われたんですか?


– え、おいくらなんですか。


– え、あ、マジですか。

– おお、なんか。こういうので見たことない残金です。

– そうですね。なんか、結果めちゃめちゃ気持ち悪かったです。

– 東京のせいにしないでくださいよ。

僕らはついついいつも、東京のせいにしてしまう。
– 東京を知ってる顔をしてますね。今日のコースにも説得力が出てきます。

ではお先失礼します。
– これから東京にお越しになる方にも、参考になったと思います。ありがとうございました。
というわけで予算1万円で東京を満喫するための、
我々が提示するベストエフォートがこちらだ。
完