偶然俳句対決〜ジャンプ漫画のキャラクター編〜




 

俳句(はいく)とは、日本の伝統文化の一つであり、季語および五・七・五(十七音)を主とした定型詩である。

数多くの詠み人により、さまざまな情景が俳句を通じて趣深く表現され、俳句は近代文芸の一ジャンルとしてその地位を確立してきた。

 

 

また、偶然俳句(ぐうぜんはいく)とは、詠むつもりがなかったものの、結果的に俳句になってしまった短文のことを指す。

 

例. すみません メニューもらって いいですか

例. おしっこが 二手に割れて こうなった

 

どちらも日常の中で普通に使いそうな言葉だが、実は俳句になっていることに気づいただろうか。季語がないため川柳としても良さそうだが、今回は無季俳句として、あくまで俳句だと解釈する。

 

すなわち偶然俳句とは、誰もがどこかで生み出している最も身近な近代文芸であり、作り物でないからこそ、詠み人のポテンシャルが強く問われるものなのだ。

 

 

一個人の生み出した偶然俳句なんてものは無数に存在する。まだ見ぬ崇高な一句はどこから生まれるか、我々は考えた。

 

たとえば傑作と言われる物語について、その中で生まれる偶然俳句は、どのような仕上がりなのだろう。

まだ見ぬ奇跡的な一句が、そこにはあるのかもしれない。

 

そして我々があの頃、昼夜も忘れて読みふけった物語とは一体なんなのか。

 

そう。それは例えば、ジャンプ漫画。

連載中の作品一覧|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト

 

透明少女ばりの紹介をしてしまったが、少なくとも我々が寝る間も忘れて没入した物語といえば、やはり週刊少年ジャンプの人気連載漫画たちだろう。

ということで今回は、日本を代表する以下5つの漫画作品が、偶然にも生み出した俳句作品を調査してみよう。

 

どれも錚々たる顔ぶれである。

彼らのポテンシャルが存分に生かされるよう、ルールは2ラウンド制でおこなう。

ROUND. 1

各作品を1巻から読んでいき、一番最初に俳句を読んだ(五・七・五になった)セリフを選出する

ROUND. 2

各作品の刊行されている全ての話数の中から、一番クオリティが高いと思われる一句を選出する

得点集計

各ラウンドでの順位、1〜5位に対してそれぞれ5〜1点を付与。2ラウンド終了時の合計得点で競う。

 

こうして我々は改めて全作品を読破し、ROUND1、2のルールに則して、それぞれの俳句を選出した。

それではここに、第一回、偶然俳句対決〜ジャンプ漫画のキャラクター編〜を開催する。

 

 

調査方法

本調査において肝となるのは、出揃った俳句を客観的かつ正確に評価する存在である。

そこで今回は、俳句の評価に一定の信頼度のある、こんな方をお呼びした。

 

島崎さん…高校時代に俳句甲子園に出場し、優秀な成績を収める。その後は俳句甲子園の運営として活動。祖父母が歳時記にも採用された俳人で、俳句一家に育った。

 

まさに俳人のサラブレットと言ったところか。人気漫画たちの繰り出す一句にも臆することなく評価を下してくれそうだ。

そして今回の偶然俳句対決の進行は、当サイトの管理人である ぴろぴろ が務める

 

ぴろぴろ俳句に関しては疎い。今回、俳句形式のセリフを探すためだけに鬼滅の刃を読み進めたため、超人気漫画であるのに内容を一つも理解できずに全巻読み終えた。

 

偶然俳句の頂点に立つのはどの作品か、命運は彼らに託された。

 

 

対決開始

司会
それでは島崎さん、本日はよろしくお願いします!

島崎さん
よろしくお願いします。

司会
ちなみに、そちらのいかつい本は何でしょう?

 

島崎さん
あ、これは全ての季語が記録されている本なのですが

司会
おお!今回の対決会で活用されるんですね!?

島崎さん
いえ、今回事前に提出された俳句は全部、

季語が入っていない無季俳句だったので、

 

島崎さん
これは必要ないでしょう。

司会
なるほど。人気漫画のキャラクターたちは、主に無季俳句を嗜むと

かしこまりました、では参りましょうか…!

それではこれより!第一回、偶然俳句対決〜ジャンプ漫画のキャラクター編〜を、開催いたします!!

島崎さん
お〜(パチパチ)

 

ぴろぴろの高らかな宣言と共に、対決の火蓋が切って落とされた。

 

 

1st ラウンド

司会
まずは第1ラウンドです。このラウンドでは、1巻から読み進めた際に一番はじめに登場する「偶然俳句」が選出されています。

島崎さん
あ、そうだったんですね笑

司会
はい!世の天才漫画家たちは一話からその片鱗を見せると言います。

この5作品に関しては、ぜひ素晴らしい一句でスタートダッシュを切っていることでしょう。

それでは早速!

島崎さん
まいりましょうか。

 

まずは5作品の俳句の中から、第3位に入ったものが達人より紹介される。

 

島崎さん
えー、第3位はこちらです。

 

 

第3位 鬼滅の刃

詠み人:  山本 愈史郎

 

司会
いきなりストレートなやつが来ましたね。

島崎さん
こちら、相手の妹を「美人だよ」と褒める俳句ということで、大変明るい内容で良いですね。

司会
なるほど!まずは愈史郎の明るさが評価されたのですね。

 

島崎さん
ただ、基本的に「5・7・5」の定形が基本なのですが、

これは真ん中が9文字の「中九」で字余りする場所があまり良くないんですよね。

司会
「5・7・5」の「7」のところで字余りするのが良くないということですか?

島崎さん
そうですね。「上六」とかならまだマシなんですが、真ん中で字余りするのは俳句で一番避けられるべきなんです。

 

島崎さん
なので、

 

島崎さん
この「は」が余計ですね。

司会
俺の妹はそうでもないんだけど……みたいな、変なニュアンスを感じてしまいますしね。

島崎さん
これがなくても普通に意味は通じるので。

司会
確かに!抜かして読んでみたら、一気にスムーズですね!

 

島崎さん
ちなみにこう言った固有名詞を扱うのも慎重にならなくてはいけないんですが、

司会
ふむふむ…

島崎さん
これは名前を呼んでるだけ、つまり「呼びかけ」の形なので、そこはまぁセーフかなという印象です。

司会
愈史郎も工夫してますね

島崎さん
それでは続いて、第2位はこちらです。

 

第2位 NARUTO

詠み人:  春野サクラ

 

司会
これはまた重たい一句ですね。カカシの幻覚でサスケの瀕死状態を見せられて、パニックになったサクラのセリフです。

 

島崎さん
これはちゃんと「5・7・5」の定形が守られていていいですね。

司会
まずはそこなんですねやっぱり。

島崎さん
ただ一つだけ言わせてもらうと、

俳句では「類想」というものも評価の軸になるんですが、

 

島崎さん
この女性が男性に「私を置いていかないで」って言うのって、ありがちっちゃありがちじゃないですか。

司会
確かに、物語としてはめちゃめちゃありますね

 

島崎さん
なのでこれは、

 

島崎さん
男女が逆の方が良いですね。

司会
全然違う話になりますよ。

しかしなるほど、そっちの方が面白みがあると。

島崎さん
はい。なんか想像するとクスってなっちゃいますよね。そっちの方が。

それでは続いて、第1位の発表です。

司会
ドキドキしてきました。さあ、スタートダッシュで抜きん出たのは、どの作品なのでしょうか。

 

 

第1位 こち亀

詠み人:  寺井

 

司会
これは確かに哀愁がありますねえ

寺井が勤務中に両さんに無理やりお祭りに誘われた時のセリフですね。

島崎さん
個人的にこれが僕は一番好きですね。

司会
ていうか、寺井が最初に一句詠むんですね。こち亀は。

 

島崎さん
この句は一読して「誘われてる」「行きたくない」っていう風景が思い浮かびますよね。

それに「途中だし」のように、言い切らずにあえて余韻を残して終わっているのが、プラスです。

司会
「途中だよ」じゃないんですよね。寺井の強く言い切れない性格がしっかり出ています。

島崎さん
そしてこの「引き継ぎの報告書」っていうのがミソで、

 

島崎さん
これって「やらないといけない」ことじゃないですか。

司会
そうですね。やらないと怒られます。

島崎さん
じゃあここにくるのは「やらないといけないこと」だったら何でもいいのかっていうと、

 

島崎さん
宿題とかじゃダメなんですよ。

司会
ふむ…どのような違いがあるのでしょう。

 

島崎さん
まぁ宿題って個人的なイメージですけど、

いいんですよ、終わらなくても

司会
おぉ。

島崎さん
「終わってない」とか、「ギリギリになってまとめてやる」とか、「持ってくるのを忘れちゃった」っていうイメージなんですよね。

 

島崎さん
“キチッと終わるもの”として「宿題」という単語を使うことはないんですよ。

司会
なるほど!終わらないのも一種のあるあるになってるから…

島崎さん
それに対して「引き継ぎの報告書」はやらないとまずいもの、忘れちゃったじゃ済まないものなんですよね。

 

島崎さん
社会人になるとわかるんですけど、本当に引き継ぎの報告書って大事なんですよね。

やらないと怒られるとかじゃない、問題になるレベルなんです。

司会
確かに。宿題と比べても、周りに与える影響の差が歴然です。

島崎さん
だからここで誘われたけど行けない言い訳として、

引き継ぎの報告書は絶妙なんですよね。

司会
ああ〜〜言われてみれば確かに…

 

島崎さん
まぁ、表現としては、この「まだ」はなくても、途中っていうのは伝わるのかなと思いますね

ちょっと二文字分損しちゃってるかも。

 

島崎さん
でも一読しただけで状況が思い浮かぶ、大変面白い句ですね

司会
ありがとうございます。1stラウンド1位の座は、見事こち亀が掴み取りました!

それでは続いてベスト3には入れなかった、次点の4位を見ていきましょう。

島崎さん
はい。4位はこちらですね

 

 

第4位 ドラゴンボール

詠み人:  餃子(チャオズ)

 

司会
チャオズがナッパの背中にくっついて、自爆する瞬間に師である天津飯に向けて放ったセリフですね。

余韻で言えば、これも中々負けてないのでは?

島崎さん
これなんですけど、

 

島崎さん
まず、「さようなら」で上五を使っちゃうのがかなり勿体無いですね。

司会
そういう見方もあるんですね。

島崎さん
「さようなら」って別れの言葉を使っているのに下五の「死なないで」も読んでる側とすればちょっと矛盾すら感じます。

状況が思い浮かばない。少し考えないとわからないのは句としてイマイチかなと。

司会
確かに。自爆するっていう切羽詰まった状況で、少し考えないと分からない句を詠むのは、ちょっとあり得ないですね…

 

島崎さん
あとこの「どうか」もくどいかな。「どうか死なないで」って、

そこまで念を押す必要はないんじゃないかと。

司会
チャオズに聞かせてやりたいです。

 

島崎さん
あと中七の「天さん」ですが、先ほどの炭治郎でも固有名詞の話をしたと思うんですけど、

 

島崎さん
これは例えば「さようなら天さん!」のような「呼びかけ」の形になってないので、

特定の固有名詞をここに置く必要はないんじゃないかなと思います。

司会
「天さん、」という風に区切られていないということですね。

島崎さん
そうですね。呼びかけじゃないとすると、その固有名詞を使うよっぽどの理由があればいいんですが、

 

島崎さん
こいつにそれほどの理由があると思えないんですよね。

司会
なるほど。最後に想いを伝えるにしても…

 

島崎さん
「天さん」じゃなくてもいい

司会
師匠への想いガン無視じゃないですか。

いやあでも、勉強になります。ありがとうございました。それでは最後に最下位の発表です。

島崎さん
最下位はこれですね。

 

 

第5位 ONE PIECE

詠み人:  アーロン

 

司会
魚人であるアーロンが、反抗してきた村人を突き飛ばして放ったセリフですね。

これはどうでしょう。ちょっと深いななんて思いましたが。

島崎さん
形としては「5・7・5」にはなってるんですけど、格言っぽく言ってる割に大したこと言ってないんですよね。

司会
あっ、すみません

 

島崎さん
しかもこの上五と中五で「人間」が被ってる。

上五がいらないです。

司会
人間なりに、生きりゃいい。だけでいいということですね。

なんか、そういうのがいっぱい書いてあるカレンダーみたいになってきましたね。

島崎さん
あと「人間なりに」っていうのが何と比較して言っているのか。比較対象が広すぎますね。

 

島崎さん
もちろんこの漫画の中では「人外」と比較して言っているっていうのはわかるんですけど、

司会
人外…そうですね、魚人ですね。

 

島崎さん
俳句って言い過ぎない、断定しないことで、情景を想像させるのも一つの手ではあるんですけど、

流石にこれはわからなすぎる。曖昧すぎますね。

司会
なるほど。ちょっとそういうとこあるんでしょうねアーロン。ふわっとしたこと言っちゃうところが。

 

 

1st ラウンド 結果

以上5つの俳句の順位が決定。現在の得点はこのような状況だ。

 

 

さすがは古豪『こち亀』と言ったところか。しかしNARUTO鬼滅といった若い作品たちの動向も見逃せない。

そして勝負は最終決戦、2ndラウンドへ。