昔YouTubeで大いに流行った「アルミホイルで鉄球」を今更ながらやってみました!!
本当にアルミホイルを叩くだけであの鉄球が作れるのか!!めちゃめちゃがんばるぞ!!!!!


PM 17:20 恵比寿駅
連日の残業の末、プロジェクトを一件リリースさせた俺は一人、帰路へとついている。今日は土曜日。暦上は祝日のはずだが、こんな時間まで手当もつかない時間外労働に勤しんでいた。

東京の大学を卒業し、新卒でネット系ベンチャー企業に就職した俺に待ち受けていたのは、いたずらに時間と体力だけを浪費する、まるで馬鹿馬鹿しい世界だった。
ふと、内ポケットのスマホが振動する。リリースに不具合でもあったのか。VPNを繋いで社外から調整するか、それともオフィスにとんぼ返りか。


連絡は、親父だった。

中学に入った時に母親を病気で亡くしてから、男手一人で俺を育ててくれた親父。感謝がないわけじゃないが、昔からこの人とは中々会話が続かない。

俺が就職してから、初めての連絡だ。


都会の波に揉まれながら一人必死で生きる自分は、どれだけ大人になったのだろう。そんな答え合わせが、親父に会うことでできる気がしたんだ。


親父は今郊外に一人で住んでいる。俺の生まれ育った場所だ。都心からでも行けない距離じゃないのだが、今まで不思議と顔を見せるのが億劫で、あまり会わずにいた。
ここに戻るのは、かれこれ5年ぶりくらいだ。

駅から降りて待ち合わせ場所に向かう。
今の自分の最寄駅よりも安心するのはなぜだろう。夕日がいつもより暖かいのはなぜだろう。

母親の作ってくれた、カレーの味を思い出すのはなぜだろう。

そして。


「久しぶりだな純平。」

久々にあった親父は、とても小さく感じた。
「久しぶり。」

「 おう、こっちだ。」

「こんなとこに引っ越してたんだ。」
「ああ。あの家は、一人じゃ広いからな。」

「まあ狭くて何もないところだが、ゆっくりしていってくれ」

「お邪魔します。」

「……本当に狭くて何もないところだね」
「そういうところに住みたかったんだよ。終の住処には良いだろう。」
「何言ってんだよ」

乱雑に積まれた洗濯物と、自炊の跡がないキッチン。ペットボトルや缶の空き容器もそこかしこに置いてある。日当たりも悪く、暗くて狭い1DKだ。

ちゃんと飯食ってるのか、なんて言葉が口をついて出そうになったがすんでのところで飲み込んだ。
流石にその台詞は、親父のために取っておいた方が良い気がした。

都心で一人孤独に命を消費させている自分と、今の親父がひどく重なって見えてしまう。親父はこんなに小さい存在だったかと、少し驚く。
「ひとの部屋をジロジロ見るな。どうせお前の部屋とそんなに変わらんだろ。親子なんだから。」


「俺の部屋はもっと綺麗だよ」

「そうか。……飯でも食うか?」

「あぁ、うん。ていうか作れんの?」
「待ってろ」


料理なんて作る人だったのか。一人暮らしが長くなって色々と覚えることも増えたのだろうか。

この人の飯なんて、レトルトのカレーか袋麺しか知らないのだが。

「ほら、これでも食え。」

「…親父、これじゃ飯なんて言えないよ」
「贅沢言うな。良いから米食っとけ」

「…じゃあ、いただきます。」

侘しい飯をかっ食いながら、昔この人がそれでも最低限の慣れない家事をやってくれていたのは、他でもない俺のためだったのだろう、などと考えていた。

「お前はちゃんと飯食ってるのか」

「親父の方がちゃんと食ってるか気になるんだけど」
ああ言ってしまった。まあいいや、許してくれ。

「こんな精進料理みたいなのばっか食ってないでさ。今は料理ができなくても、出前とか結構いいのあるんだぜ。」

「ほう、じゃあその良いのを純平が教えてくれよ」

「そうだなあ。ちょっと後で検索してみるね。」

「ありがとうな」

どこからか親父が取り出してきた缶ビール。俺と飲むために用意してくれていたのだろうか。


まさかこんな形で、親父と二人の晩酌が実現するとは思わなかった。
「そんで、飯はちゃんと食ってるのか?」

「大丈夫、これよりは良いもん食ってるから。近所の総菜屋も充実してて、野菜とかもちゃんと食ってるんだよ。」
「おお、それは良かった。」

「親父もせめておかずくらいは用意しろよ。」

「俺はこのくらいで上等なんだよ。仕事は何をやってるんだ。」

「言っても分かんないと思うけど、webの受託開発のベンチャー企業で開発のディレクションをしてるよ。」

「営業と一緒にクライアントの課題を分析して、プロダクト設計から実装まで一括でやるんだよ。これ聞いて伝わるか?」

「なんか頑張ってるってことは分かったぞ。」
「分かってねえじゃねえかよ笑」


「お前は昔から、一人で生きてるみたいなツラするからな。」

「どういうことだよ」
「あいつが、母さんが死んだ時からお前は、たびたび天涯孤独みたいな顔をするようになったからな。社会人になってもその顔続けてないか気になったんだよ。」
「別に一人は一人だろ。今も。」

「一緒にいるかだけの話じゃない。」
「……。」

「お前は母さんの作った飯を食って、俺の借りたアパートに住んで、おばあの買ってくれた服を着て、おじいの買ってくれたおもちゃで遊んで、大きくなったんだよ。」
「今が一人でもな、みんなで生きてきたんだ。」

「だから一人で生きてるようなツラすんな。一人になろうとすんな。それだけだ。」

「……。」

「そろそろ寝る時間だな。風呂入るか?」

「…ああ、いいよもう夜遅いし。ちょっと寝てから帰るよ。」

「そうか。じゃあそこに出してる毛布でも使ってくれ。」

「わかった。」

俺は一人じゃないらしい。だからなんだ。
俺は一人になろうとしてるらしい。それがどうした。
自分の仕事の話を、横文字使ってわざと分かりにくく親父に説明したのも、俺は一人だと思いたかったからなのか。
一人で疲れていく方が、楽だからなのか。


向こうに見える親父の背中は小さくて丸くて、このまま死んでしまうんじゃないかってくらい、静かに眠りについていた。

俺もビールなんて久々に飲んだな。
いつもはサワーだからな。





「起きたのか?さっさと準備しろよ」


「送って行くぞ」
「うん。」



「明日は仕事なのか?」

「うん。親父は?」

「明日は、ないな。」


「そっか」

「あ、親父。ここまででいいよ。もう駅も近いしさ」

「ああ、わかった」

「じゃあね。飯食えよちゃんと。おかずも買えよな。」


「おい」

「またいつでも帰って来いよ」


「あぁ。また行くよ。」

「一人じゃないもんな。」















END













