町が暮れなずむときだけ金八先生になってみた




 

幼少期に住んでいた町というのは、本人の人格形成に大きな影響を与えるものだ。

 

はっきりとは思い出せなくても、その町で、ずっと昔に触れたことのあるぬくもりであったり、

暗い道に迷い込んでひとりぼっちで泣いた思い出も、全て、意味のある過去なのである。

 

しかし、昔住んでいた場所も時間の経過に伴って変化していく。

今記憶の片隅にある情景は、ひょっとしたらあなたの心の中にしか残っていないのかもしれない。

 

 

 

大人になった今、幼少期に過ごした町に足を踏み入れたとき、

僕らは一体どんな答え合せができるのだろうか。

 

幼き頃のその町での、嬉しい記憶や懐かしい記憶に浸れることだろう。

ともすれば嫌な記憶も全て、大人になった今、正解にできるかもしれない。

 

 

さあ、答え合わせの時間だ。

 

 

ということで今回は、幼少期を過ごした町に、数十年ぶりに訪れて町巡りをする運びとなった。

自由と青春をひたすらに追いかけたかつての自分を、あの頃より少しだけ小さくなった町の中に探しに行こう。

 

 

撮影開始

今回撮影に参加するのが次の人物である。

 

ごどう…当サイトの企画スタッフ。今回は小学生時代に3年ほど過ごした町を闊歩する。小学生の頃は何にでもなれる気がしていた。

ぴろぴろ…当サイトの管理人。今回はごどうの町歩きに同行し様々な情景を撮影する。小学生の頃は青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)になりたかった。

 

今回我々が足を運ぶのが、ごどうが幼少期に少しだけ住んでいたという東京都北区の赤羽である。

 

JRは埼京線や湘南新宿ラインなど豊富な路線が通っており、近くには赤羽岩淵駅という地下鉄もあるなど鉄道の便が発達している。

 

駅周辺は居酒屋などが多いが、少し離れると比較的落ち着いた雰囲気で、学生からファミリー層まで人気のある町だ。

 

今回はそんな赤羽の町を、ごどうと一緒に歩いてみよう。

 

 

赤羽の商店町へ

ぴろぴろ
それではごどうさん、今日一日よろしくお願いします。

 

ごどう
うん。いやあ、こんな何でもないやつが勝手にウチくる!?みたいなことして良いもんかね。

ぴろぴろ
そういう等身大の情景がいいんですよ。駅前に降り立ってどうですか?

 

ごどう
そうだなぁ。大学進学で東京に出てきてから、あんま行くことは無くなっちゃったけど。

 

ごどう
なんか不思議なもんで、20年ぶりくらいなのにやっぱり色々思い出が蘇るね。

ぴろぴろ
ぜひ今日はごどうさんの思い出の場所を案内してください。

ごどう
よし、任せろ。今日でお前を赤羽のファンにさせてみせるぞ。

 

ごどう
当時住んでたのは大体この辺だったんだよな。

ぴろぴろ
お、川の近くだったんですね。

 

ごどう
そうそう。この河川敷もよく遊んでた場所だわ。もちろんここも案内するよ。すごい綺麗だからね。

ぴろぴろ
豊かな自然、いいですねぇ。

 

ごどう
よし、早速行くか。

お、「1番街」あるね。変わってねぇな〜。見てよあの看板。

 

ぴろぴろ
昔ながらの商店町って感じですね。

ごどう
もう20年前からずっと変わってないよ。思い出すなぁ、いろいろと。

 

久方ぶりに降り立ったかつての故郷に思いがこみ上げてくるごどう。

たった数年住んでいただけの場所にも、実際に足を運ばないと蘇らない思い出が多くある。

 

 

ぴろぴろ
ここはよく来られてた場所なんですか。

 

ごどう
そうね。ここは居酒屋がすげぇ立ち並んでて、まだ子供だけで来るような場所ではなかったんだけど。

 

ごどう
よく仕事終わりの親父に連れられて来たなぁ。

もう夜は料理の匂いタバコの煙が立ち込めててさ。なんか大人の世界だったよね、当時の俺からしたら。

 

ごどう
「チキンライス」の歌詞に、『酸っぱい湯気が立ちこめる向こう 見えた笑顔が今も忘れられない』って歌詞があるけど、

あれは実は当時の俺の心境を歌っているのかもしれないな。

ぴろぴろ
あれは赤羽一番街商店町のことではないですよ。

 

ごどう
お、あのやきとん屋行ったことあるなぁ。

 

父親によく連れられて来た商店町の様子に想いを馳せるごどう。

あれから大人になり、将来自分の息子に同じことをしてあげられるだろうかという少しの不安が、彼の背中からは伝わってくるようだ。

 

 

ごどう
このアーケードの通りとかすごいよ。居酒屋が密集してるぜ。

ぴろぴろ
うわ、飲兵衛からしたらたまらないですね。

 

ごどう
この辺の細かいとこ入るのは初めてかもな。こんなんなってたのか。

 

ごどう
こういうところで昼間っから飲むのも最高なんだろうなぁ。

 

ぴろぴろ
夏の暑い日に、外の風に当たりながら飲みたいですね。

当時はどうでした?夏の暑い日に。

ごどう
グイっと行くわけないだろ。小学生だぞ。

お!

 

ごどう
この本屋覚えてる!なんか今見ると小せえなあ 笑

ぴろぴろ
ごどうさんが大きくなったんですよ。

 

ごどう
コロコロとかここで買ってたよ。でも親と来るとさ、難しい参考書とかも買わされそうになって。

 

ごどう
今はネットで本が買える時代だけど、リアル書店もなくならないでほしいよね。

ぴろぴろ
本の、インクの匂いとかも、いいですよね。

ごどう
さて、ここは居酒屋ばっかりだし、戻るか。

 

ごどう
なんかあったかな〜。

 

 

我々はアーケードを出て元の商店町を再び闊歩することに。

すると、ある建物が我々の目に入った。そしてその光景は、ごどうの足を止めた。

 

ぴろぴろ
あれは、学校、ですか。

ごどう
そうだね。

 

ごどう
俺の通ってた小学校だよ。

ぴろぴろ
え?ここがそうなんですか。

 

ぴろぴろ
驚きました。こんな飲み屋街に隣接してるんですね。

ごどう
まぁ、ね。

 

ごどう
でも、こっちの門からは出入りすることはほとんどなかったね。

 

ごどう
逆側に正門があるからさ。こっちの門は基本封鎖されてるのよ。

ぴろぴろ
なるほど。夕方とかだと居酒屋も空いてるし、こっちの門から子供たちだけで出入りするのは怖いですもんね..

 

ごどう
まぁ大丈夫よ。赤羽の人は優しい人たちばっかりだからさははっ。

入ることはできないんだけど、ちょっとだけ中覗いてみたいな。

ぴろぴろ
赤羽愛がありますねごどうさん。中覗いたりできるんですか。

ごどう
こっちの道よ。ちょっと狭いけど。

 

ぴろぴろ
これはまた…、地元民だけが通る道といった感じの。

ごどう
猫の恩返しみたいだよな。赤羽に恩返しするやつなんかいないけどな。ははっ。

ぴろぴろ
赤羽愛あるんすか、ないんすか。

 

ごどう
ここから、ちょっとだけ中が見えるぞ。

ぴろぴろ
ごどうさん、今日はこの小学校に通っていたことを証明できる何かは持っているんですか。

その、警備の大人が来たときのために。

 

ごどう
昼休みにサッカーしたなぁ。俺だけ給食食べんの遅くてさ、ラスト10分くらいしか参加できなくて。

…でも、グラウンドとか校舎とか改装されているね。ここだけは、当時とは違うなぁ。

 

聞くところによるとごどうは小学2~4年生の間、この学校へ通っていたという。

たった3年間のわずかな期間ではあるが、リノベーションされた母校のグラウンドを前に、柵に手をかけ、彼は何を思うのだろうか。

 

 

ごどう
すまんすまん。ちょっと思い出にふけてたわ。次行こうか

 

ごどうの学び舎を後にして、我々は再び商店町の方に戻った。

 

 

ごどう
どう?ちゃんとウチくる!?みたいになってるかな。

ぴろぴろ
来る人こそいないウチくる!?になってます。いい感じですよ。

ごどう
良い感じのかなそれは。

ん?

 

ごどう
ちょっと入ってみようか。

ぴろぴろ
和菓子のお店ですね。

 

ごどう
ほぇ〜。いろんなお菓子が取り揃えられているぞ。

ぴろぴろ
ここは来られたことはないんですか。

ごどう
そうね。もしかしたら当時からずっとあったのかもしれないけど、このお店は知らなかった。

 

ごどう
値段も、安いな。

 

ごどう
よし、これにしよう。

ぴろぴろ
久助せんべいですか。

 

ごどう
ちょっと買ってくるわ。食べるでしょ?

ぴろぴろ
そうですね。小腹が空いていたので助かります。

 

ごどう
すみませ〜ん…

 

多くの居酒屋が所狭しと並んでいる中に、このようなお菓子屋さんや書店もたまに佇んでいる。

相変わらず風情があり、長く続いているお店なのだろう。きっと長年通っている常連客も多くいるに違いない。

 

 

ごどう
うし、行くか。

 

パリッ

ごどう
美味〜〜いね。子供の頃こういう渋いお菓子は食べなかったんだよ、ラムネとかグミが好きでさ。

ぴろぴろ
大人になったからできる町の歩き方ですね。

 

ごどう
野菜とかもスーパーで買うよりこういうところで買ったほうが安いんだろうな。

 

ごどう
なんか、久々に住みたくなってきたな。

ぴろぴろ
都心へのアクセスもいいし、いいと思いますよ。

 

ごどう
さて、一番街はこれくらいにして、違う場所行ってみようか。

ぴろぴろ
そうですね。それこそさっき話した、川の方とか。

 

ごどう
そうね。じゃあ一回駅の方戻る必要があるから、あっちだ。

 

ごどうの思い出が詰まった商店町を後にして、我々は駅の方へ向かった。

 

 

 

ぴろぴろ
もう夕方ですね。

ごどう
ね、日が暮れてきたよ。うろうろしすぎちゃったかな。

 

6月のこの時期は日が長いが、それでもやはり、ゆっくりと確実に、太陽は沈む準備をしていた。

 

ぴろぴろ
川まで結構歩くんですか。

ごどう
う〜ん。まぁ30分くらいは歩くかな。

 

 

 

 

ぴろぴろ
結構遠いんですね。

ごどう
まぁこっち側から行こうとするとな、しょうがない。

 

ごどう
でもこの道のりも哀愁があるってもんよ。ほら行くぞっ。

 

我々は赤羽駅を後にし、ごどうがよく遊んでいたという河川敷へ歩を進めた。

 

 

ぴろぴろ
ちなみにごどうさん、その河川敷にはどんな思い出があるんですか。

ごどう
うーん、そうね。

 

ごどう
まぁ、友達と遊びに行った思い出が多いかな。

 

ごどう
親に怒られたときとか、友達みんな帰った後でも一人でボール蹴ったりしてたな。

ぴろぴろ
家に帰りたくないとき、ありますよね。

 

 

ごどう
一人で大きい川の流れをボーッと見てると、だんだん不安になってきてさ。

 

ごどう
友達と遊ぶ日中は水面がキラキラしてるのに、家に帰りたくない夜は真っ暗な水面で。

ぴろぴろ
川って色んな表情があるんですね。

 

ごどう
思うにあの川はさ、あの時の俺の心を、映してたんだよなきっと。

ぴろぴろ
なんかムカつくまとめ方ですね。

 

ごどう
だから今、俺の目に川はどう映るのか興味があるのさ。

 

ごどう
お、こんなところに美味しそうな小料理屋が。

ぴろぴろ
川行きますよ。

 

ごどう
あ〜。ビール飲みたくなっちゃうね。枝豆と鶏皮で一杯やりたいよぉ。

ぴろぴろ
大人になると川よりこっちの皮ってなもんですね。

ごどう
お前もムカつくな。

 

ぴろぴろ
もう河川敷行くのやめてここで飯食って帰りますか。

 

ごどう
バカチンが!

ほら、行くぞォ。

ぴろぴろ
すみません。では、進みましょう。

 

ごどう
このアーケード街はすっかり変わってるね

見たことないお店や建物ばかりだよ。

ぴろぴろ
比較的綺麗な建物が多いですもんね。

 

ごどう
こんなとこに桜中学校があるね。最近できたのかな

ぴろぴろ
ん、いや。赤羽岩渕中学校ですね。アーケードの中に学校があるってすごいですね。

 

 

我々がアーケードを抜けんとするそのとき、赤羽の町を照らしていた太陽はすでに沈みかけようとしていた。

 

ごどう
さぁ、もう河川敷は目前だぁ。行くぞお前らぁ!

ぴろぴろ
自分しか、いませんが。

 

 

河川敷へ

ここが、ごどうが昔よく来ていたという河川敷である。

 

 

ぴろぴろ
いや〜〜、夕焼けも相まって、めちゃめちゃ綺麗ですね!

 

ごどう
そうだな、バカチンが

ぴろぴろ
あっちの方にも川があるんですかね。

ごどう
行ってみましょう。バカチンが。

ぴろぴろ
悪口言ってますよね普通に。

 

 

駅周辺の賑やかな雰囲気とは一転、広い面積を誇る美しい川と、それにかかる一本の橋に我々はしばし見とれてしまった。

 

ごどう
いやぁ、懐かしいですねぇ。風もとっても気持ちいいです

ぴろぴろ
本当ですね。ところでこの川は今、ごどうさんの目にどんな風に映ってますか?

 

ごどう
子供の頃のままですよ、この川は。何も変わらないです

ぴろぴろ
それって結局、ごどうさんの心は子供の頃から成長してないってことですかね。

 

ごどう
コラぁ〜!健次郎!お前って奴はァ〜〜!!

ぴろぴろ
ぴろぴろです。

 

 

幼少期、ごどうの憩いの場であった赤羽の河川敷は、今も変わらず、大人になったごどうにとっての憩いの場であった。

 

川は心情を写すものだと彼は言った。

 

その彼が昔と変わらない表情を川から読み取ったのであれば、

それはあの頃と同じような、純粋無垢な気持ちに今日この瞬間だけは戻れたということかもしれない。

 

ごどう
さて、そろそろ戻ろうか。帰りは違う道から戻るのはどうでしょう。

ぴろぴろ
そうですね。陽も落ちてきましたし、ちょうどいい時間です。

 

河川敷を後にし、我々は再び駅の方角へ歩みを進めた。

 

ぴろぴろ
いや〜あんな場所があるなんて。赤羽って良いところですね。

ごどう
本当だねぇ。そうだ、

羽という字はぁ、鳥とかの羽を絵に描いた感じから、段々変わっていって羽って文字になっていったんですよ。

ぴろぴろ
全然面白くない文字の由来ですね。今まで聞いた中で一番面白くない文字の由来かもしれません。

 

 

再び赤羽駅へ

ぴろぴろ
もう完全に日が暮れますね。長い1日でした。

 

 

 

ごどう
思ってたよりもたくさん歩いたな。

 

ぴろぴろ
さっきの商店町に戻ってきましたね。

ごどう
あぁ、こっちは商店町の出口の方だね。

 

ごどう
この時間になると、色んなお店が開いて賑やかになってくるな。

ぴろぴろ
いいですね〜。

 

ごどう
ん。商店町の出口に近い方は、こんなオシャレなお店もあるんだね。

ぴろぴろ
商店街も色んな顔がありますね。

 

ごどう
あー。こういうお洒落な店で、フルーツ系のカクテルとか行っちゃうのもありだなぁ。

ぴろぴろ
腐ったミカンサワーとか、ないですかね。

 

ごどう
馬鹿かよ。

そんなもんあるわけねぇだろ。

ぴろぴろ
すみません、冗談ですよ。

 

ごどう
それにしても、流石にここまで歩きまくると腹が減ってくるな。

ぴろぴろ
今日あのおせんべいしか食べてないですしね。

 

ごどう
おっ。。。

 

ごどう
いいじゃん。

ぴろぴろ
まさに、買ってすぐ食べられます。何個かまだ売ってそうですね。

 

ごどう
おはぎをもらおう。美味しそうだ。

 

ぴろぴろ
ここも老舗ですね、きっと。

ごどう
ね。多分俺がいたときからあったと思う。

 

ごどう
甘〜〜い♡ね。身体に染みるわ、糖分が。

ぴろぴろ
和菓子レベル高いお店多いですね。昼間のおせんべい屋といい。

 

赤羽の町はすっかり闇に包まれ、居酒屋から放たれる光に照らされていた。

 

ごどう
よし、このまま駅行って、終了だ。

ぴろぴろ
お疲れ様でした。

 

こうして、ごどうの地元・赤羽の町巡りは終了した。

 

 

総括

ぴろぴろ
ごどうさん、今日はお疲れ様でした。

ごどう
いえいえ。久々に懐かしい場所に戻ってきて、いろいろ感慨深かったよ。

 

ごどう
何て言うんだろうね。こういう機会じゃないとまた来ることはなかっただろうし、

すごい自分を見つめ直す時間になったかな。

ぴろぴろ
それは本当に良かったです。

 

ごどう
大人になった今、俺はあのときなりたかったような大人に本当になれてるのかなって

ぴろぴろ
結果、どうでしたか。

ごどう
いや、この答え合わせは今日では終わらない。

それは俺の人生が続く限り、ずっとだ。

でも、きっと正解にしてみせるよ、俺の今の人生を。自分の力でね。

 

ぴろぴろ
また数年後、答え合わせに来ましょうか。

ごどう
おう!臨むところよ!

 

そう言って駅のホームへと吸い込まれていくごどうの背中は、昼間に会ったときよりもなんだか大きく見えた気がした。

目まぐるしく過ぎる日々の中で、自分の成長を実感する瞬間はそう多くはない。

かつて育った町並みは、私たちを少しだけ大人にしてくれるのかもしれないのだ。

 

 

みなさんもたまには、あの頃の町と自分に、会いに行ってみませんか。