昨今ではYouTubeをはじめあらゆる動画配信サービスが台頭しており、そのコンテンツは映画・ドラマやテレビ番組まで多岐にわたる。
そして御多分に漏れず、アダルトビデオ(以下、AV)もその一つである。
AVの市場規模は500億円ほどでアニメや映画と比べると小規模ではあるが、
他のコンテンツ同様にストリーミング再生やダウンロード視聴が隆盛し、最近ではサブスクでの展開も開始。時代とともに裾野を広げて進化を続けている。
そしてその進化は市場に限った話ではなく、内容にも現れる。
AVは基本的にセクシュアルなシーンがキーポイントではあるが、単体モノの作品ではキー展開までのストーリーがしっかり作り込まれていることが多い。
映画さながらのカメラワークと音響効果、俳優と見紛うキャストの演技力があるからこそメインシーンがより際立つのだ。
ただエロを提供するだけではない、一つの完成された映像作品としてのAVが近年ますます当たり前になりつつある。
我々は今、AVと映画・ドラマの違いに即座に気づけるのだろうか。さながら映像になる前の、台本としての両者にほとんど差はないものと思われる。
今回は実際のAVの台本を何も知らされずに読んだとき、
AVの台本だと気づくのにどれだけかかるのかについて調査する運びとなった。
AVの作品としてのドラマ性を、バイアスを排して客観的に評価してみよう。
世間一般的に見てまだまだアンダーグラウンドなAVについて、新たな側面の魅力を見つけられるかもしれない。
台本制作開始
実際にAVで使われる台本を入手することは不可能なので、今回はAV作品を一つ選び、それを人力で文字起こしすることで台本を制作していく。
今回は単体モノのAVを対象に台本を制作する。
その中でもストーリー性が重厚に作り込まれている今回の検証に最適な作品を調査した結果、
『母の友人 夏目彩春』に決定した。
自宅に泊まりに来た母の友人・彩春と息子・勇樹が、数年ぶりの再会を期に惹かれ合い、勇樹から強引にアプローチをするラブストーリーである。
レビューを見てもストーリーに焦点を当てた賞賛が多く、今回の検証にふさわしい作品である。
AVを超えたと言いながらも、しっかり結論=ナイスバディに帰着している点も見逃せない。
それでは早速、登場人物の台詞を一言一句追いながら文字起こしを進めていく。
台本化することで気づくドラマ性の高さ。文章では俳優の演技力の要素も消失するため、普段接している映画作品との差がより縮まっていくように思える。
そして、キャストのセリフを全てまとめ上げた台本が完成した。
もちろん作業の上で作品に目を通すことは避けられないのでいかんせん時間はかかったが、早速本題の検証へと移っていこう。
検証開始
今回は次の人物に検証に参加してもらう。
ごどう…当サイトの企画スタッフ。大学時代から現在に至るまで演劇をやっており、台本制作に携わることもある。それはそうと、AVもよく見る。
ぴろぴろ…当サイトの編集長。今回は一晩中かけて寝ずにAVの文字起こしをおこなったため、目の下にハート型のクマができたという。
今回は被験者であるごどうに対して、
「ある有名映画のサブキャラ目線でのスピンオフ作品を作ったので、台本だけ読んで何の映画か当ててほしい」
というニセ企画を伝えて、作成したAV台本を読み進めてもらう。
なお、「台本の中の人物名は本編とは異なる名前にすり替えてあるため、人物名から映画を割り当てることはできない。」ということも伝え、検証を開始した。
1ページ目。
勇樹「ん?誰か来てんのかな。ただいまー。」
夕美「あら、おかえり勇樹。帰ってたの。」
勇樹「あぁ、ただいま。」
彩春「ゆう君久しぶり。大きくなったね。」
勇樹「お久しぶりです。」
夕美「驚いた?市のヨガイベントに出てもらうので来てもらったのよ。スペシャルゲストよ。」
彩春「あはは。」
夕美「東京じゃもう有名なインストラクターだからね。」
彩春「そんな大げさな。夕美先生のおかげです。」
夕美「ふふ」
彩春「ゆうくん、月曜の朝までお世話になります。よろしくね。」
勇樹「あ、はい。」
夕美「シャワー浴びたらご飯にするから、勇樹も勉強終わらしちゃいなよ。」
勇樹「うん。」
彩春「頑張ってね。」
勇樹「は、はい。」
自室にて
勇樹「(彩春さん、ますます綺麗になって。それに部屋中が、母さんのとは違う、良い匂いに包まれていた・・・・。)」
夕美「…勇樹も勉強終わらしちゃいなさいよ。」ってことは、
勇樹は学生??
「(彩春さん、ますます綺麗になって、それに部屋中が母さんのとは違う良い匂いに包まれていた…)」
このセリフだけ異常に気持ち悪いけど、大丈夫??
自宅に来た母の友人にそわそわしてしまう息子というAVの導入としか思えない序盤だったが、台本形式の1ページ目だと中々それを気づかせない。
2ページ目へと突入する。
ガチャ
彩春「誰?誰かいるの?(風呂から出る)」
夕食
夕美「よし、じゃあ乾杯!」
勇樹「乾杯。」
彩春「乾杯〜!」
勇樹「てかなんで、今時間計ってたの?」
彩春「ヨガの後2時間は、お酒も食事もダメなのよ。」
勇樹「ふーん。母さんいっつもそんなの気にしてないじゃん。」
夕美「気にしてるわよ〜。ヨガをやると、吸収率も上がってるから、すぐ飲むのは危険なのよ。」
勇樹「なるほど、だから母さんいっつも酔っ払いやすいのか。」
夕美「も〜ちゃかさないの。」
彩春「お酒を飲んで酔っ払うのは、健康の証拠ね。」
夕美「ね。」
彩春「それにしても、ゆう君もお酒飲める歳になったんだね〜。おばさん嬉しいな〜。」
勇樹「・・・おばさんだなんて。」
夕美「そうよ〜。彩春ちゃんがおばさんだったら、私はどうなるのよ。」
あれ…?勇樹は二十歳超えてるのか。母の「勉強終わらせない」は何?
3ページ目へ突入するごどう。まだ作中で大きな動きはないようだ。
彩春「でも、ゆう君から見たらおばさんだし。」
夕美「ん〜」
勇樹「そんなことないです。すごく若いです。素敵です。」
彩春「ふふっ。ゆう君上手になったね〜。女の子にモテるでしょ?」
勇樹「・・・。」
彩春「体だって随分鍛えてるみたいだし。」
夕美「それがねぇ、全然モテないの。筋トレより、ヨガやれって言ってるんだけど。」
彩春「うんうん。」
勇樹「ヨガやったらモテるって・・・」
彩春「ねぇ、ヨガやったらモテるわよ。ヨガも、恋愛と同じで、呼吸が大事だから。」
夕美「そうよ〜。私に教わるのが嫌だったら、この機会に彩春ちゃんに教えてもらいなさいよ。」
彩春「うん、お安い御用よ。でも今日は、はい!飲んで飲んで。」
勇樹「あぁ…。おっとっとっと。」
夕美「ちょっと勇樹。そんなに飲んだら本当に酔っ払っちゃうわよ〜。」
勇樹「大丈夫だよお酒くらい。いただきます!」
彩春「ふふふ。」
勇樹「あぁうまい。ん〜。」
作品の真の部分に徐々に気付き始めるごどう。
まだまだいけそうだ。
3ページ目も読み終わり、4ページ目へ。
自宅に遊びに来た母の友人に惚れた主人公が、酒を飲んだ流れで後日ヨガを教えてもらうことになったのがここまでの展開である。
彩春「何見てるの?」
勇樹「あぁ・・・」
彩春「ヨガは呼吸だって言ったでしょ。」
勇樹「は、はい。」
彩春「じゃあ、息。鼻から吸って〜」
勇樹「はい。」
彩春「鼻から〜吐く。ゆっくり〜吐く。お腹が凹んでくるでしょ?」
勇樹「はい。」
彩春「十分凹んだら、また鼻から吸って〜鼻から吐く。基本は腹式呼吸だからね。リラックスして。」
勇樹「は、はぁい。」
彩春「ねぇ。どうしてドキドキしてるの?」
勇樹「・・・・・・。」
彩春「興奮してるんでしょ?」
勇樹「あ、は、はい。」
彩春「ねぇ。おばさんと、キスしよっか?」
勇樹「・・・え?彩春さんは、おばさんなんかじゃないです。」
彩春「良いのよおばさんで。・・キス、したくない?」
勇樹「え・・・したいです。」
そして5ページ目へ。
ん?彩春が急に暴れ出したけど。
なんか、ずっとキモチ悪い感じはあったんだけど。
なるほど記録は5ページ目ですね。いやあ、おめでとうございますごどうさん!
検証結果:5ページ目で気づく
説明をくれよ。
確かにAVにしては描写に深みがあるんだよな。
誰のスピンオフか真剣に考えて夕美と彩春の視点に代わる代わる立ってた俺が馬鹿みたいじゃねえか。
AVのセリフと演劇のセリフは全く違うからね。
それでは次の検証に移りましょう。
AVの台本は5ページ目でAVだと気づかれることが分かったが、
1ページ目だけを見たとき、AVの台本と演劇の台本では違いはあるのだろうか。
今回我々は、AVのセリフを書き起こした台本の1ページ目と、実際に存在する演劇の台本の1ページ目をそれぞれ2部ずつ用意した。
今回はそれらをランダムにごどうに見せていき、AVなのか演劇なのかを当ててもらう検証に移ることになった。
第1問
唯奈「いらっしゃいませー。」
慎一「あの、こんにちは。」
唯奈「あぁ、相馬さん!こんにちは。どうぞ。」
慎一「すみません、ありがとうございます」
唯奈「いえいえ、いつも来てくれてありがとうございます。えーっと、ご注文は?」
慎一「じゃあ…カフェラテで。」
唯奈「いつものですね、かしこまりました。」
慎一「お願いします。」
慎一「今日は外、曇ってますね。」
唯奈「そうですね。確か、曇り時々、雨?」
慎一「あ、そうなんですか?」
唯奈「え、ご存知じゃないんですか?」
慎一「天気予報とかあんま見ないもんで。」
唯奈「もしかしたらこの後、雨が降るとか降らないとか。」
慎一「えぇ、傘持ってこなかったな。」
唯奈「でもあんまり降らないみたいなので大丈夫かと。」
慎一「だからこんなジトジトしてるんですね。」
唯奈「ジトジト、ですか。」
これは演劇でもAVでもありそうなんだよ。
「ジトジト、ですか。」はやめろよ。転びうるだろ、どっちにも。
いつも来てくれてありがとうって言ってるもんな。
みたいなパターンだと思うんだよね。普通は。
あと怪しい文章があって、
慎一はいつもカフェラテを頼むって知ってるのに、あえて注文を聞いているんだよ。
アホみたいなエロが見たいんだから、みんな。
パッと見は分からないかもしれませんが、じっくり読めば演劇ですよこれは。
『Make!』でした。
イェ〜イ!これ正解でしょ?演劇のタイトルだよね?
子供をMake!とかじゃないよね?よっしゃ〜〜!
このクイズはもらったな。
第2問
智広「そんながっついて、相変わらず育ち悪いな京〜」
京「腹減ってるんすもん。」
駿「うんうん。」
智広「いやぁ昨日、太郎が足場壊してよ。倒れちまったんだよ。」
京「えぇ!?」
駿「あいつまたやったんすか?」
智広「うん。そうなんだよ。」
京「まじかよ〜。」
智広「てか三日後から雨らしいから、一週間くらい休みになるんじゃねぇの」
京「えぇ、俺金ないっすよ!?」
駿「ふははは。」
智広「みんなねぇよ!」
駿「パーっといきましょうよ。パーっと。」
京「当ててやがるからなぁ」
智広「駿はだって先週競馬で当ててっからな。」
駿「パーっといきましょうよ。パーーーーっと。」
京「・・・おい、あれ。」
智広「うわ。ヤベェ。」
これがもしAVだとしたら、このセリフは3人の前をかなりエロい女性が通りかかったんだと思うんだよね。
かなり決定的な文章としてここが怪しいんだよ。
まず三日後の未来の出来事を伝えた上で、さらにそこから1週間の未来完了進行形の話をしている。
今日の天気さえわかればいいんだから、AVは。
こちら台本の作品タイトルは…
※実際はごどうの考察通りなのですが、自信をつけるのを防ぐためあえてはぐらかしています。
第3問
明乃「わっ!」
透子「わぁ!ごめんなさいごめんなさい!起きてます!あれ?」
明乃「おはよう。」
透子「え…と、とおる?」
明乃「お、呼び捨てじゃん。珍しい。」
透子「え。えー透、くん?」
明乃「あはは、もどった。今は先生だろ。これ何回目?」
透子「先生?」
明乃「えぇ?寝ぼけてんの?ま、いいけど。なぁ、採点終わった?」
透子「さ、採点?」
明乃「おーい霧山さーん?…やっぱり寝ぼけてる?」
透子「あ。えーううん。大丈夫。採点ね、採点。」
数時間後
透子「あの、なんの採点?」
明乃「ちょっと休憩するかぁ…なぁ、冷蔵庫になんかあったっけ?」
透子「え!?多分、カフェオレとか。」
明乃「取ってきていい?」
透子「うん。あ、はい。」
てか今更だけど、これもしAVの台本だとしたら名前で男優かどうか分かるんじゃ?
一番最初のヨガのやつも、主人公・勇樹を演じてた男優、イセドン内村ですしね。
そこで明乃の「今は先生だろ。」。あー分かったぞ。
ズバリ、この二人は肉体関係があるでしょう。
教師と生徒が恋に落ちて…の王道なやつです。これはもうAVしかあり得ない。
てか「数時間後」ってAVでしか見ない気がしてきたわ。
この台本の作品タイトルは….
第4問
トントン!
大輔「ちょっと待って!なに??」
武継「ちゃんと就職活動してるか?」
大輔「こうしてやってるだろ。なに!?」
武継「この間お前に話したと思うんだけど、お前の母さんになる人、紹介しようと思って。」
大輔「あぁ、今日だったね。」
武継「ちょっといい?」
真莉香「大輔くん初めまして。真莉香と申します。よろしくね。」
大輔「あ、よ、よろしくお願いします。」
武継「お父さんの部下だった人なんだけど、先月で会社辞めて、今日からここで一緒に暮らすことになったから。お前も早く、次の就職先決めて、お母さんを安心させろよ。」
真莉香「大輔くん、何かあったら遠慮なく言ってね。」
大輔「ありがとうございます。」
ピンポーン ピンポーン
武継「あ、お前の荷物、届いたみたいだな。俺の部屋にスペース空けたから、そこに入れちゃうか。」
真莉香「はい。」
大輔「(その日が、僕とあの人の出会いだった。そして、その日から僕たちの生活は始まった。)」
次の日
AVには辻褄を合わせるために、こういう色々ギュッとする瞬間があるんだよ。
大輔「(その日が、僕とあの人の出会いだった。そして、その日から僕たちの生活は始まった。)」
これはもう絶対にAVです。AVを絵に描いたようなやつです。
こちらの作品タイトルは、
です。
シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜みたいになってたけど。
結果、2勝2敗でした。お疲れ様でした。
総括
演劇もAVも根っこの部分は一緒なのかもなあ。
台本と真剣に向き合うと、1ページ目だけでもその作品の息遣いを感じることができたよ。ちょっと特殊な形式だったけど、これは素晴らしい気づきだった。
それでは最後に、今日見た作品の中で一番続きが見たい作品を教えていただけますか。
完