『スラムダンク』の「あきらめたらそこで試合終了ですよ」や、
『鬼滅の刃』の「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」など、
アニメ作品には多くの名ゼリフが散らばっている。
それらのセリフは作品を超え、名言として後世に語り継がれるものが多い。
実際にアニメを見たことがなくても、前述のセリフを知っている人は多いはずだ。ときにそれらは、現代社会を生きる我々の明日を生きる糧となる。
一方、そんな現代社会では昨今、外資系企業の隆盛により横文字のビジネス用語が多用されることが増えてきた。
「明日のMTGはリスケでお願いします」
リスケ(リスケジュール)…予定の変更
「このプロジェクトのバジェットは多少バッファを持たせましょう」
バジェット…予算、バッファ…余裕
普通に日本語でいいのにという思いがよぎるものの、ことビジネスの現場ではそれらを知りませんで済ませることはできない。
いちいち「バッファって何ですか?」などと確認すれば、それこそステークホルダーとの間にクリティカルなハレーションを生んでしまうかもしれない。
ただ逆に考えると、ビジネスシーン以外でも横文字を多用すれば、いっぱしのビジネスマンっぽくなるのかもしれない。
状況を間違えれば、胡散臭いコンサルにもなりかねないが。
我々の胸を打つようなアニメキャラの名ゼリフも、要所要所を横文字にすれば、
急にコンサルのそれっぽくなるのだろうか?
例えば先の『スラムダンク』の有名なセリフ「あきらめたらそこで試合終了ですよ」
県大会決勝で試合時間が残り12秒に差し迫った際に、来賓席に転がったボールを拾い上げた安西先生が選手に放った一言であるが、これの一部を横文字にするとどうなるか。
⬇️
⬇️
⬇️
急に開発部の責任者感が出てきた。
安西先生が安西ディレクターへと化した。場所も体育館ではなく、プロジェクトのリリース直前の会議室である。
およそデッドラインが12時間後に迫った緊迫した状況なのだろう。「安西先生…!リスケがしたいです……」とでも言いたそうなエンジニアに圧をかける、やり手のプロジェクトリーダーだ。
続いて『鬼滅の刃』に出てくる「生殺与奪の権を他人に握らせるな!」
主人公の炭治郎が、妹の禰豆子を殺そうとする冨岡義勇に命乞いをした際に義勇に言われた一言であるが、横文字を混ぜるとどうだろう。
⬇️
⬇️
⬇️
空気の悪い1on1の時間に早変わりだ。
軟弱な相談は寄せ付けない、ゴリゴリマッチョなマネージャーからの厳しくもありがたい一言である。リ○ルート出身のツーブロックな義勇さんは続けてこう言うのだろう。
「それで、君はどうしたいの?」と。
このような具合で、今回は「どんなアニメキャラの有名なセリフも、ちょくちょく横文字にするとコンサルっぽくなるのか」について検証する運びとなった。
人気作品の名ゼリフと横文字イケイケビジネスシーンが表裏一体となっている実情を見つめ直すことで、現代社会がいかに外資系企業の勢いに飲まれているかを観測してみよう。
検証開始
今回は検証結果により客観性を持たせるため、我々の方で横文字に変換したセリフを実際にIT企業に勤めている人物に確認してもらい、コンサルっぽくなっているのかを検証していただく。
今回協力していただくのが次の人物だ。
小池さん…新卒で某大手広告代理店に入社し、3年後に退社。現在は動画マーケティングを軸に置いたスタートアップ企業に業務委託で関わっている。友人知人からも「お前は胡散臭い」ともっぱらの評判。
ルックスと自宅の背景もさることながら、その経歴からも良い意味でのコンサルっぽさが漂っており、まさに今回の検証においては最適の人物といえよう。
そして小池さんに対して横文字に変換したセリフをプレゼンしていくのが次の人物である。
ぴろぴろ…当サイトの管理人。一瞬だけIT企業に勤めていたが、お腹が痛くなって即退職。長い間「アジェンダ」のことを化粧品メーカーだと思っていた。
それでは早速検証に移っていこう。
ちなみにこの漫画の中に出てくる会話くらいは本当に当たり前のレベルでしたね。
小池さんが我々に見せてくれたのは、社内で横文字が横行している様を描いた漫画である。過去Twitter上で大きな反響を生んだものだ。
4年?くらいまえに広告代理店にちょこっとだけいたときに描きおこしてた「広告用語でシンデレラ」が出てきた。当時これを自分でほぼ解読できてたの信じられん。終始何言ってんだ pic.twitter.com/1PTcVthwCz
— せるこ (@seruko) June 30, 2020
わかりました。それでは今回は我々の方で用意した、要所要所を横文字に変換したアニメのセリフを提示していきますので、コンサルっぽくなっているかどうかの判定をお願いします。
すでにその片鱗を垣間見せる、非常に頼もしい小池さんとともに、名ゼリフを横文字に変換していこう。
『ドラえもん』ドラえもん
まずは有名な『ドラえもん』のこのセリフから。
「道をえらぶということは、かならずしも歩きやすい安全な道をえらぶってことじゃないんだぞ。」
楽な道を行こうとするのび太に対して、ドラえもんが厳しく叱責する際のセリフである。
作中ののび太だけでなく、多くの読者が改めてハッとさせられるような一言である。ではこのセリフにちょいちょい横文字を挟むとどうなるのだろうか。
⬇️
⬇️
⬇️
うるさそうなメンターである。
いやはやドラえもん自体のび太のメンターみたいなものではあるが、横文字になるとなんとも厄介さが増してくる。飲み会で気持ちよく仕事の話をしそうなドラえもんだ。
タイムマシンを使うより、タイムマネジメントの手法について御託を並べてきそうなドラえもんに対して、のび太は付き合いきれるのだろうか。
安全なプランを組むだけでなく、たまにはリスクを飲んで、どんな責任を負っていくのかと。
「いいか、ジャイアンに対してお前は喧嘩で勝ちたいのか、それとも仲良くなりたいのか。目的の部分から問いただしてもっと大きい先を見ろ。長期的に見て今取るべき選択肢を考えるんだ」
って。
まあ一定のリアリティがありますから、これはコンサルっぽくなったと言って良いのではないでしょうか。
それではこの調子でどんどん見ていきましょう。
『BLEACH』藍染惣右介
続いては『BLEACH』より、日番谷冬獅郎に「てめぇを殺す」と言われた藍染惣右介の返しの言葉である。
「あまり強い言葉を遣うなよ 弱く見えるぞ」
自身の実力を履き違えると過信が生まれ隙につながるぞという意味も込められている。『BLEACH』の全編の中でも、指折りの名ゼリフの一つだ。
ではこれに横文字を混ぜてみるとどうなるだろうか。
⬇️
⬇️
⬇️
言ってる側が弱く見える結果になってしまった。
ちょっと決めのシーンにしてはダラダラ喋りすぎている。横文字も使いようによってはディスコミュニケーションに繋がるのである。
それでは続いてのセリフに行きましょう。
『七つの大罪』エリザベス・リオネス
続いてはアニメ『七つの大罪』より、ヒロインのエリザベス・リオネスがメリオダスに言った次のセリフである。
「私は…たとえ世界中を敵に回しても、この人を信じます。」
「世界中を敵に回しても〜…」という上の句は決め台詞を放つ際に使われがちではあるが、言われた方はなかなかに胸を打つものがある。
ではこれに横文字を混ぜるとどうなるだろうか。
⬇️
⬇️
⬇️
全然信用できない担当者になった。
横文字が入ることで、元のセリフと比べて若干冷静な気分が取り戻される。せめてコンセンサスは得ようよという気持ちになってくる。
信じますと言われるより、アテンドしますと言われた方が、おいちょっと待ってくれの気分になるのはなぜだろう。担当者間で合意形成がされていないプロジェクトの進行こそ、七つの大罪の一角を担いそうだ。
ちなみにすみません、元ってどんなんでしたっけ。
なんでこれがこんなことになるんですか。
わかりました。
では続いてはこちらです。
『ドラゴンボール』カカロット
続いてはアニメ『ドラゴンボール』で主人公のカカロットが、宿敵・フリーザに対して言い放った一言である。
「クリリンのことかーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
フリーザにクリリンを殺されスーパーサイヤ人に進化したカカロット。その後フリーザから「貴様もあの地球人のようにバラバラにしてやろうか?」と挑発を受け、激怒した際の一言である。
ドラゴンボールの数ある名シーンの中でもこの部分は極めて印象的で、多くの読者の記憶に残っているが、横文字に変換するとどうなるか。
⬇️
⬇️
⬇️
一気に冷静になった。
クリリンという存在が急に、色々あるビジネス要因の一つへと矮小化した。
ともすれば「このタスク、クリリンさんのとこで止まってます?」とも聞こえる一言だ。クリリンが聞いたら、心臓がキュッと縮こまるしかない。事前に爆殺されておいてよかった。
何だろう、ナメック星の悪行?違う?
うーん、あ、もしかして、
『ONE PIECE』モンキー・D・ルフィ
続いては『ONE PIECE』より、かつての海賊王の右腕・レイリーから「キミにこの海を支配できるか?」と問われた際の主人公・ルフィの言葉である。
「支配なんかしねェよ この海で一番自由な奴が 海賊王だ!!!」
笑顔でそう返すルフィに、レイリーはかつての自由奔放な海賊王・ロジャーの姿を見るのであった。
主人公の主人公たる器を見せつけたこのセリフ、横文字を混ぜてみるとどうなるだろうか。
⬇️
⬇️
⬇️
すごく戦略的にグランドラインを攻めるやつになった。
彼の手にかかれば海賊王も、KPIやらKGIと同様にKZO(海賊王)と称されることだろう。
レイリーはこのルフィを通して誰を見るのだろうか。ロジャーよりも孫正義が映るかもしれない。KZOは、経済王のことなのかもしれないのだ。
そもそもその領域で真っ先に市場を作って規模を広げて独占していくことに意義があるんですよ。
ベンチャーキャピタルからの融資も受けられないでしょう。
KZOってのも、そういうのの一種なのかな。
『NARUTO』うちはイタチ
ラストは『NARUTO』のうちはイタチの次のセリフである。
これはイタチの弟であるサスケが復讐相手である兄・イタチを倒した際に、幻術の中のイタチに言われた一言である。
やっとの思いで復讐に成功したサスケが、その相手である兄に感動的な言葉を投げられる印象的なシーンであるが、横文字を挟むとどうなるだろう。
⬇️
⬇️
⬇️
まあこのくらい強く言い切りたいときがあるという気持ちはわかりますが。。
オンスケであるという、ただその一点のみが重要なわけです。
こんなこと言うコンサルはいません。
検証を終えて
今回改めてそう思いましたね。
もうルー大柴と線が引きづらくなるレベルです。
「こうなるなよ」っていう教材というか
自分もディスコミュニケーションを引き起こさないよう気をつけます。
総括
いかがだっただろうか。
結果的に、あらゆるアニメキャラの名ゼリフを横文字にすることで、そのほとんどがコンサルの知的っぽさを超えた駄目セリフになってしまった。
新しい語彙は確かに視野を広げてくれるものだが、大切なことは本当に伝えたいことが相手に伝わっているかという一点に他ならないのだろう。
我々も生まれ育った国の言語をこの機会に改めて尊重し、自分のものにしていきたい。
それこそが、コアバリューなのである。
完